氷河期男の咆哮

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自殺予定日/秋吉理香子

自殺予定日 267P

著者 秋吉理香子

読みやすさ ★★★★★ 

 

 秋吉理香子さん初読み。「自殺予定日」という暗黒感と翳のある表紙でチョイスしました。前情報なしで読みましたので、いわゆるイヤミスを想定していたのですが、この作品はまったくそっち系ではなく、むしろ気恥ずかしくなってしまうほど爽やかな、10代の読書感想文用によさそうな青春ミステリー。2時間集中すれば読破できるのではないでしょうか。

 秋吉さんについて、管理人は「暗黒女子」を書店でよく見かけたなぁという程度しか知識がなく、それも手に取ってはみたもののパスしたような記憶があります。

 少女時代からアメリカと日本を行き来し、早稲田の文学部卒。アメリカの大学も出て映画関連会社でお勤めされていたとのことで、才女感が出まくり。

 2008年のYahoo!JAPAN文学賞受賞を機にプロになり、本作は5作目にあたります。

 少女の遺書から始まる冒頭、いかにものワケアリ母が出てきて、この後、復讐劇が展開されていくのかなと勝手に想像してしまいました。が、少女が自殺を決行したところから話がなにやら軽いタッチに転調します。幽霊少年の登場です。

 以後は探偵モノ。なんとなく結末は予想できますが、管理人は叙述ミステリーを見破ったことが皆無などん臭い読者なので、ラストは見事に作者の思惑通りにやられました。短編に近い分量なので、複雑な人間関係もない中、二段階オチでスッキリとまとまっています。

 本書のキーワードはやっぱり「自殺」。読後、タイトルに思いをはせることになるでしょう。自殺に対する登場人物の言動は非常に的を射ていたもので、主人公瑠璃の言葉が美しい物語の閉じ方に導いてくれます。

もしも三人のうち誰かがこの先、とても辛い経験をして、もう死にたいなんて自棄になることがあったら。

そうしたら瑠璃は、絶対に頭ごなしに否定なんてしない。

軽蔑もしない。弱さを責めたりしない。

相手の気が済むまで、ただ黙って話を聞いてあげる。簡単に「やめろ」と言わない。口先だけで励ましたりもしない。その代わり、嵐の中を支えて歩く。絶対にその手を放さない。具体的な解決策を一緒に探して、必ず打開して見せる--

  思春期の少女故の葛藤を中心に描いたとてもよくできた作品でした。他の作品も一度読んでみようかと思います。ちなみにこれは余談ですが、作者の秋吉さんは「イヤミスの旗手」と期待されているようですが、ご本人にはその自覚がないばかりか、イヤミスという言葉さえ知らなかったらしいですよ笑。

 

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