【書評】富山市議はなぜ14人も辞めたのか~政務活動費の闇を追う~
- 208P
- 著者 チューリップテレビ取材班
- 読みやすさ ★★★★★
2016年、富山市議が14人も辞職したというニュースを覚えている人も多いんじゃないでしょうか。その件を発覚から顛末までまとめたものが本書。著者にあたる「チューリップテレビ」というのは富山市にあるTBS系列の放送局です。全国ニュースに乗る前に自力でスクープにしたのが彼らでした。
政務活動費の不正といえば2017年は神戸市のハシケンこと橋本健議員が今井絵理子議員とアレがアレで結局議員辞職して随分と話題になりましたね。
号泣議員として世界的にもその名を轟かせた野々村竜太郎元西宮市議も同じズルです。14人が束になっても彼のインパクトの足元にも及びませんが、この人たちも捨てたもんじゃありません。
目次
いきなり給料を10万円アップする富山市議員
上記の辞職ドミノの発端となったのが2016年4月に議会のトップである市田議長が、市長に対して議員報酬増額の審議会が要請したことでした。
議員定数を42から40に減らすことが決まっていたので、その代わりに給料増やせと。民間企業では考え難いこの引き上げが、非公開の密室で行われた審議会によって電光石火で「引き上げは妥当」との結論が出ます。
4月に出された案が6月にOK。行われた審議会は僅か2回、時間にして3時間だったといいます。そして6月中に条例案を提出し、報酬増額案を出した7割を占める自民党会派で可決するというスケジューリング。
早ぇー!それでもお役所仕事かよ!と突っ込みどころ満載です。どこかの国のイッキョウ首相でもそんなに早くことを運べないでしょう。
市議会の条例はそんなに簡単に改正できるものなんでしょうか。これにて議員報酬は月額60万円から70万円に。
この金額は全国の中核都市で東大阪市と金沢市と並んで最高額ということです。そういうわけで、チューリップテレビが異議を唱えるため、突っ込みに行くわけです。
「市議会のドン」中川勇
ここで登場するのが、本書のリード役を務める「富山市議会のドン」こと中川勇議員。小池百合子、現東京都知事躍進の折、悪の親玉として一躍有名人になった内田茂を意識しているのかいないのか。
2016年当時、前述したように全議員の7割を占めていた自民党会派のボスです。このボスがいい味出してるんですよ。一連のストーリーの堂々たる主役です。もう受け応えから終了フラグ出すぎだし。
取材に来た新聞社のメモを奪い取るというボスとしてあるまじき軽率なことをしちゃったり、漫画の第一話に出てくる悪党役にピッタリなキャラです。
そんなボスにチューリップテレビの記者がアタックして、市民感情を逆なでするようないい感じのコメントを引き出し、ドミノ辞職劇場の幕が上がります。
政務活動費チョロマカを突き止める
中川勇攻略の糸口は情報開示請求による政務活動費の調査でした。よく週刊誌が議員の呆れたムダ使いを載せてますね。マンガを買ったとか、マクドナルド食ったとか。
チューリップテレビはこの制度を利用して、元々噂のある中川議員の政務活動費不正利用の証拠をあげるべく大量の資料を精査しました。
その結果、開いていない集会に使用したコピー代の領収書を発見し、関係各所にウラ取りを行って不正の証拠を固めていきます。
ハリコミがあったりして、さながら刑事ドラマ。中川議員にも直接質問していますが、当然しらばくれます。コピーの領収書出した人物はもちろんグル。この後の展開を見ると正直、この時点で本人ドッキドキだったんでしょうねぇ。
ソッコーで逃亡するボス
この件が放送されるやいなや、観念した中川議員は、謝罪や否定をする前に遺書的な書置きを残して失踪してしまいます。
その後、命に別状もなく発見されるのですが、なんちゅう無責任な男だよ。イキってた前半部分と対比すると、怒りを通り越して清々しくすらあり「コントかよ!」とひとりツッコミみを入れたくなります。
中川議員は結局議員辞職に至りますが、この失脚劇が本書のクライマックスであり、それ以上のことは以後起こりません。
フィクションならこの後、大ボスが出てくるところですが現実は、カラ出張している議員やら、茶菓子代を水増しする議員やら、同様の不正をしていた議員がバッタバッタと辞職して、計14人が議員辞職して幕を閉じます。
金額には大小あって、たった数万ケチっただけで辞職に至った議員はきっと「ごくごく小さいことなんです!」と言いたいことでしょう。
ちなみに不正に関与していたのは自民党の議員だけではありません。市の職員が隠ぺい工作に加担していたことも発覚し、富山市政の腐敗は常態化していたようです。
彼ら全員に共通して言えるのは薄い薄い罪の意識。往生際の悪さがかっこ悪いったりゃありゃしません。
過去から当たり前のように不正が行われていたようで、バレた議員からすれば外れクジを掴まされたという感覚だったのでしょう。
本当に悪いヤツは議員辞職しない
さて、この14人についてはマスコミはもちろんのこと、ネット上でも血祭りにあげられていますので、これ以上深くここでは言及しません。
罪を憎んで人を憎まずと言いますので。そもそも、しょっちゅう槍玉にあげられているにも関わらず、一向に改善されることのない政務活動費の運用の仕方に問題があるのは明らかです。
彼らは後ろ盾の弱い地方議員だから報道でフルボッコにされたにすぎません。滑稽な弁明や嘘を重ね、余裕でバレる。そりゃテレビ的におもしろい。
中川ボスなんてカメラに向かって、ほんとかウソかわかりませんが「まあ、飲むのが好きなもんですから、誘われれば嫌とは言えない性分で。ほとんどが飲み代です」なんて言っちゃうんですから、可愛らしいもんですよ。本書でも述べられていますが、もっと質の悪い国会議員や閣僚はゴロゴロいますよね。
さて2017年4月に行われた富山市議選挙では辞職した議員では唯一、浦田邦昭氏が勇敢にも立候補しましたが58人中53位の得票数であえなく落選。(それでも1,413票を得ているのが不思議)
そして不正行為があったのに辞職しなかった自民党の議員も7人がシレっと立候補し、5人当選しています。ちなみに落選した2人のうちのひとり吉沢剛氏は得票数は最下位の170票!どんだけ人望ないんだよ。バクチの勝ち分を受け取ってもらえないカイジのようです。
では、ここではバッシングの嵐をうまく回避し、不正を行いながらも議員辞職に追い込まれることもなく、選挙も勝ち抜いた世渡り上手な5名を列挙しておきましょう。政治家は謝ったら終わりとも言いますのでね。僕はこの人たちの方が信用できませんわ。
- 五本幸正 3,795票 不適切使用37万5千円
- 柞山数男 3,674票 不適切使用41万2千円
- 金厚有豊 3,018票 領収書偽造疑惑にシラを切り通す なんと金持ちそうな名前
- 高田重信 2,940票 2年連続の不正 頭おかしい なぜ当選できた
- 成田光雄 2,960票 不適切使用6万4千円 40代、年功序列で不正枠が決まるのか?
以上、5名は富山市民の厚い信任を受け見事当選を果たしました!彼らを含めた自民党議員は22議席獲得。不正発覚前が28議席なので、議席を減らしたとはいえ過半数は確保。地方の保守の強さったら泣けてくるね。
投票率が47.83%なんでこれが民意というわけではないんでしょうが、でもねぇ。。。これじゃきっとなんも変わんないっすよぉぉ!冒頭にあった賃金UPは取り下げになったことが唯一の救いですが、今後がまた心配です。
最後に、チューリップテレビの記者が本書で挙げている古代ギリシアの格言で締めくくりたいと思います。
政治に関心のない国民は愚かな政治家に支配される
地方都市の地方局が示したジャーナリズ精神が、多くの人の心に届くことを願うばかりです。