【書評】明治維新という過ち-日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト
- 416P
- 著者 原田伊織
- 読みやすさ ★★★★
司馬史観ということばがあるように、幕末の動乱から明治維新にかけての日本人の認識は著しく司馬遼太郎の影響を受けています。僕も初めて通読した小説が「龍馬がゆく」というわかりやすい司馬ファンです。
大河ドラマやスペシャルドラマとして氏の小説は何度も原作として使われているので、あたかも司馬氏の物語が真実であるかのようにまかり通ってしまっている。そして、歴史の授業で習うような事柄でさえも薩長が書いた、すなわち「勝者が作った歴史」だというのが本書です。
「なるほど」と思うように書いてあるのはそういう本なので当たり前なわけですが、客観的にみても頷ける点は多々あります。
目次
龍馬という虚像
犬猿の仲であった薩長同盟を一人で取り付け、大政奉還へと導いた偉人「坂本龍馬」。これが僕も習った歴史ですが、2017年末に「坂本龍馬、吉田松陰が教科書から消える」というニュースがありました。
こんな大事を成した人間が歴史を学ぶ上で不要ということはありえないですよね。確かに。本書では龍馬は単なるグラバー商会の代理人だったとあります。
グラバー商会はアヘン戦争による中国侵略の中心勢力であった「ジャーディンマセソン商会」の日本代理店です。武器や兵糧が欲しい薩長とグラバー商会との仲介に龍馬の「亀山社中」を使ったということです。
薩長同盟という軍事同盟がそもそも存在しないともあります。薩長同盟の根拠とされる6か条の内容が、討幕を目的とした運命共同体になるという内容ではまったくないのです。まぁ確かになんでもたった一人で成し遂げたスーパーマンよりも、外国の出先機関の手先だったという方が、現実味はありますよね。
吉田松陰の物ではなかった松下村塾
松下村塾といえば幕末の志士たちを幾多輩出した吉田松陰の私塾。このイメージが強いのではないのでしょうか。ですがこれは誤りです。松下村塾は開いたのは松陰の叔父にあたる玉木文之進が主催していた私塾で松陰は門弟です。
ですので、松下村塾の名は「松陰」に由来するものではありません。場所が松本村だったのでその「松」です。
表題でも名指ししているだけあって著者は松陰を「稚拙な外交思想」「長州藩の厄介者だった」とクソミソ。
ちなみに「稚拙な外交姿勢」というのは、
・北海道の開拓及び、カムチャッカからオホーツク一帯の占拠
・朝鮮を属国とする
・満州・台湾・フィリピンを領有する
というもので、後の世に日本軍はそれを実行していたりします。
目的達成のためには暗殺も辞さずという姿勢や不満分子を糾合したカリスマという点では、今でいうところのISのような扱いですかね。本書の文脈的には。
幕府の役人=無能は誤解
列強に日本を食い散らかされた無能な幕府役人とそれをすんでの所で救い明治維新を成し遂げ日本の独立を守った薩長というのがまた、教科書通りの教えです。
もちろんこれにも異議を唱えています。幕末には優秀な外交官僚がいて、彼らは実際に大政奉還の後も外交交渉を担当していました。この点については明治を創った幕府の天才たち 蕃書調所の研究という本に詳細があります。
政権奪取に成功した中心人物は皆20代、当時の背景に照らし合わせても若輩者といって差し支えないでしょう。彼らだけで政権運営を担当するというのは土台無理な話です。
幕臣たちがみんなポンコツだった方が、勝者である薩長には都合がいいですからね。
総評
ということで、本書のテンションに沿ってきましたが、龍馬や松陰が果たした役割は推測することしかできません。「暗躍」したのか「縁の下の力持ち」だったのか。
ただ、僕自身は司馬さんの小説によって司馬バイアスがかかっていたことは間違いありません。だって面白いんだもの。
2017年は維新150年にあたり、本書の他にも明治維新を再考する本が数多く出版されました。今まで光が当たることのなかった敗者である幕府を容易に知ることができるようになりました。
新しい観点を持って読む幕末本は読書により深みを与えてくれると思います。