【書評】潜入 モサド・エージェント
- 399P
- 著者 エフタ・ライチャー・アテル
- 読みやすさ ★★★
2018年3月、ロシア人の元スパイがイギリスで殺されるという事件がありました。まさしくこの本のことじゃないか。
なぜ引退したスパイが殺されるのか。浮気相手と仲違いしたときを想像してください。それがもたらす厄災は近年の桂文枝を見ればわかる通りです。
機密情報を熟知している元スパイは国家にとって脅威でしかありません。仮想敵国に情報が流出してしまったら最悪です。そのリスクはマスコミに騒ぎ立てられる程度とは比べ物になりません。
殺害されたスクリパリ氏は、過去にMI6(イギリスの諜報機関)に情報を渡したとしてロシアで実刑判決を受けていますね。その上、過去2年の間に妻と息子、そして兄が亡くなっていたといいます。めっちゃ邪魔にされてるやん・・・
真相は知る由もありませんが、本書はイスラエルの最強諜報機関「モサド」の元女スパイが突然失踪したという物語です。
目次
モサドとは
モサドが世界最強の諜報機関と呼ばれる所以は、イスラエルという国の成り立ちにあります。
イスラエルはユダヤ人のために建国された言わば人工国家です。ユダヤ人は第二次世界大戦で悲惨なホロコーストを経験しました。
なので同国には「全世界に同情されながら絶滅するより、全世界を敵に回してでも生き残る」という国是があります。
敵国に包囲された環境下で国家を生存させることと同時に、全世界のユダヤ人を守るという特別な使命ががあるのです。
ストーリー紹介
物語の主人公はレイチェルという女性スパイ。冒頭、彼女はスパイを引退した後、本国の命令に背いて姿を消してしまいます。
そして、エフードという元教官係がレイチェルを回想する形で、一旦過去に戻ってストーリーが進んで行くのですが、本書はほとんどこのお爺さんの回想です。
話的にはものすげー単純です。要所のみで端折ると
- レイチェルスパイになる
- アラブの敵国に潜入する
- 敵国の要人に接触→惚れる
- 任務完了して帰国、スパイ引退
- 惚れた相手に会いに行って告る→振られる
- 本国に追われて・・・
こんな感じで、奇抜な点はありません。潜入スパイの苦悩という面では進撃の巨人のライナーみたいな感じですね。女性なので友情ではなく、恋が絡んできます。
あとはサブ要素としてエフードがこっそりレイチェルに惚れちゃっています。20歳も年上なのに。
言いたいけど言えない男の恋心というか、若い子を好きになっちゃったオジサンの気持ちを書きたかったのかな。作者。袖にされ感がスゴくて可哀想です。
総評
著者がモサドにいたマジモンのスパイなので、ストーリーというよりはリアリティで読ませる作品に仕上がっていますね。地味と言えば地味ですが、それだけに感情移入はしやすい。
「007」や「ボーンシリーズ」的なスパイを期待して本書を読んではいけません。ノンフィクションの自伝物に近いと思います。
個人の感情より国家への忠誠心を上に置かないとスパイは務まりませんね。絶対に。
もっともローリスクハイリターンなスパイ手法はハッキングなわけですが、これができない場合はやっぱり人間。
ドローンが豆粒ほど小さくなったとしても、それはそれで対策が立てられるでしょうから、人間のスパイはこの先の世も必要であることは変わらないでしょう。
孫子の時代から重要性が説かれているんですから、息の長い職業ですね。スパイ。でも僕は年俸10億でもやりたくないです。
では、レイチェルの悲痛な叫びで締めくくりたいと思います。
秘密が勝利を収めたのです。透きとおるようでいて、決して突き通せない秘密が。
出会った最初の日から、それはわたしたちのあいだに立ちはだかる障壁でした。