氷河期男の咆哮

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【書評】子どもの脳を傷つける親たち

  • 224P
  • 著者 友田明美
  • 読みやすさ ★★★★

虐待のニュースを聞くと本当にイヤな気持ちになります。子どもの数は減っているというのに、その種の事件はしょっちゅうどこかで起こっています。表出するものだけでもそうなので、目に見えない虐待はもっとあるということです。そして親が自覚していない虐待も。

子どもの「心が傷つく」ことは簡単に想像できると思います。本書で述べられていることは子どもの脳が実際に損傷を受けるとういことです。

目次

マルトリートメントとは

マルトリートメントとは日本語に直訳すると「不適切な養育」で、虐待とほぼ同義です。子どもの心と身体の健全な成長・発達を阻む養育をすべて含んだ呼称ということで、より広義な概念としています。

「虐待」というと自分には全く関係ないように思えますが「不適切な養育」というと、親なら誰しも経験があるのではないでしょうか?イライラをぶつけたり、体罰を与えたり。

著者もわが子にうんざりして「睡眠薬を飲まして寝かせてしまえたら、どんなに楽だろう?」と思ったことがあると正直におっしゃっています。

マルトリートメントはどの家庭でも起こり得ることなのです。

実際に変形してしまう脳

では著者の研究に基いた脳が変形するという実例を。

子ども時代にDVを目撃して育った人は脳の「舌状回」という部分の容積が、正常な脳より平均6%小さくなっていたということです。舌状回は視覚野の一部です。

ざっくり言いますと、視覚的なメモリ容量を減少させることで苦痛を伴う記憶を脳に留め置かないようにしているのではと推察しています。

注目すべき点は、暴力によるDVを目撃した場合より、言葉によるDVを目撃した方が脳の萎縮率に6~7倍大きく影響を与えるということです。

目の前で殴り合いしてるよりも、言葉の暴力の方がヤバいってことですよ。ということは、めちゃめちゃ父親を罵る母親を目撃した子どもは、ボコボコに母親を殴っているオヤジを目撃するよりもショックを受けるってことですかね?(もちろん口ゲンカするより殴り合いをした方がよいということではない)

また、親から深刻な暴言を受けて育った子は聴覚野の容積が増えるそうです。これもザックリ言いますと、親の暴言によってシナプスの伸び方がめちゃくちゃになります。(正常な脳の場合適切な剪定のようなことが行われる)

シナプスが伸び放題になると、人の話を聞いたり会話する時に、通常より余計な負荷が脳にかかってしまいます。結果、心因性難聴で情緒不安定を引き起こしたり、人との関わりを恐れるようになってしまうのです。

子どもは親しか頼る人がいません。どんな辛い状況でも耐えれられるように脳の変形によって適応してしまうとは何と悲しいことか。

言うまでもなく、その変形した脳は成長した後になって社会に順応するには適していません。そして虐待がその子にまで及んでしまうケースは最悪の負の連鎖です。

本書にはマルトリートメントを受けた子が成長して親になった時、自分の子に対してもマルトリートメントを行う確率は1/3という数字は被害者が加害者になってしまうという現実を示しています。

どうやって子どもと接するべきか

著者が子育てに不安を抱えている家族や、不登校の子どもに対して実践していることの一部が紹介されています。これは通常の子育てにおいてもとてつもなく大切なことだと思います。

積極的に使いたい3つのコミュニケーション

  1. 繰り返す
  2. 行動を言葉にする
  3. 具体的に褒める

1はどういうことかというと、子どもの話したことを繰り返すということです

例)子「ねぇねぇお日さまが出てるよー」

  親「そうだね。お日さまが空に出てるね」

こうすることで子どもには自分の話を聞いて、親が理解しているということが伝わります。それによって会話が上達し頻度が増すということです。

2は子どもがやってることを「あ、ちゃんとお片付けしてるんだね!」みたいな感じで声をかけ、興味関心が子どもに向いていることを伝えます。

子どもが今やっていることが良い行動だと学習もできます。子どもはやっていること大して注意を保つことができるので、行動についての考えがまとめられるようになるということです。

3は「お友達と順番交代できたんだねー凄いね!」みたいに、具体的に褒めることです。褒めることはよい行動を増やす効果があるそうです。

実際に褒められると報酬系の脳が反応します。お金をもらった時とかと同じ反応ですね。大人でも褒めらると嬉しいですからね。

避けたい3つのコミュニケーション

  1. 命令や指示
  2. 不必要な質問
  3. 禁止や否定的な表現

逆にやらない方がいいことですが1は解りやすいですね。大人も人から言われると興味がそがれやる気がなくなる人は多いでしょう。

「こんなふうにやったら?」みたいな言い方も子供の主導権を奪うことになってしまいます。これはすなわち親の欲求。子どもが従わない場合お互いににイヤな気分になるので好ましくないそうです。

2はやってしまいがちですね。考え事をしている子どもに「何してるの?」と聞くと集中力が切れてしまうので止めた方がいいみたいです。

公園で遊んでる時なんかに「もうに家帰るの?」みたいな詰問調の質問は、子どもに否定的なニュアンスを与えるので、これも良くないそうです。んーなかな難しい。

3はやっていない親いないでしょう笑「ダメ!」「やめて!」「しないで!」と、否定的な言葉で迫っても問題が改善することはまずない上に、子どもの否定的な行動を増やしてしまうとあります。

どうでしょう?使いたいコミュニケーションの方は努力次第ですぐにできそうですが、避けたい方は相当努力がいるような気がします。

だけど、子どもの健全な成長のためと思って心にしっかり留めておきたい3か条ですね。

総評

この他にも、本書には様々な興味深いデータや、子育てに関して含蓄に富んだ話がたくさんあります。

「虐待する親なんて最低だわ」「何であんな人がいるのかしら?」なんて思っている人ほど、本書を読んでみると目からウロコとなることでしょう。

昭和生まれの僕からすれば子育ての概念は本当に変わりました。先日、同じ少年野球チームにいた友人たちと当時のことを話していたのですが、コーチが竹刀持って立ってるわ、殴る蹴るに水は飲めないわで「今なら確実に逮捕やなー」と盛り上がりました。

今となっては笑い話ですが、10歳やそこらの小学生に対していい大人がよーそんなことできたもんやなと思います。めっちゃ行くのイヤでしたからね。

この本を読んだら「俺も脳傷ついたんちゃうんか!?」とビビりました。本当子どもは大事にしましょう。国の宝なのだから。

それでは金言と共に締めくくりたいと思います。

家族や仕事、メールの返信は明日でもできるでしょう。

しかし、一日一日変化をしている子供の成長の瞬間は二度と訪れないのです。

 

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