氷河期男の咆哮

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【書評】師弟

もうすぐ2018年のプロ野球ペナントレースが開幕します。本書は、昨年96敗という絶望的としか言えない成績だったヤクルトスワローズの元監督ノムさんと、ヘッドコーチに就任して鬼軍曹ぶりが連日取り上げられる宮本慎也との共著です。

ノムさんは本書文中で述べている時点で著書が120冊(笑)けっこう読んだつもりですが、1割も読んでませんでした。

それだけ書いてるので内容はカブりまくってるんですが、なんか読んでしまうんですよね。新ネタが見たくて。

今回は共著ということで、ネタに広がりを見せています。

目次 

野村克也 監督として

それでは、著者である2人を簡単に振り返っておきましょう。選手としてのノムさんの実力は言うに及ばず、そして現代の読者にはあまりにも昔すぎるできごとなので割愛します。 
 
解説で食うと決めていたノムさんがヤクルトの監督として現場復帰したのは1990年のこと。
 
それまでのヤクルトはというと1950年から1989年の間にAクラス(3位)以内に入ったのはたった5回。リーグ優勝は1回のみという弱小球団でした。
 
それがノムさん就任から辞めるまでの9年間でリーグ優勝4回(うち日本一3回)!!ひひとたび1990年代の最強チームに変身したのです。
 
僕がちょうど中学生~高校生ぐらいのことで、1980年代に無敵を誇った西武ライオンズとの日本シリーズはテレビにかじりついて観ていたものです。
 
杉浦の代打サヨナラ満塁ホームランには鳥肌もんでしたよ。子どもながら。
 
ヤクルト監督時代の成績
1187試合 628勝 552敗 7分 勝率.532
 
数字で見ると突出したものではありませんが、リーグ優勝4回日本一3回はライバル読売ジャイアンツを完全に凌いでいます。
 
ヤクルトがそもそも常勝軍団ではないことを鑑みると素晴らしい数字なのです。
 
ちなみにノムさん監督就任前の10年間は
1300試合 539勝 681敗 80分 勝率.441
 
10年間の勝ち星が野村監督時代の勝ち星を下回っていますね。
さらにノムさん退任後の10年間は
1409試合 692勝 692敗 25分 勝率.500
 
なんとか踏ん張っています。さらにそこから2017シーズンまでいくと
1293試合 583勝 667敗 43分 勝率.466
 
すっかり弱小球団に戻ってしまいました。
そこで、ノムさんの薫陶を受けた宮本コーチが満を持して誕生したわけですね。
 
おまけですが、ノムさん「失敗」だったと再三言っている阪神時代の成績は
411試合 169勝 238勝 4分 勝率.415
 
弱い時のヤクルトどころの話ではありません笑
ただ阪神ファンの僕もノムさんでどうにかなるとは思っていませんでした。
 
その後活躍した赤星、桧山、矢野がよく監督の教えを聞いていたと著書では述べてますね。

宮本慎也 選手として

宮本コーチは選手としてとても稀有な存在だったのではないでしょうか。新人時代は野村監督からも「自衛隊や」 と言って、守備のスペシャリストとして送り出されていました。
 
2年目のシーズン後半にはレギュラーを掴み、3年目にはショートでゴールデングラブ賞を獲得。バンドの技術も磨き2001年にはシーズン犠打の世界記録(67)を作りました。
 
元巨人の川相のような選手になるのかなと思いきや、いつのまにか打撃の技術も向上してシーズン3割を打つ打者になりました。最終的には強打者の証である2000本安打も達成。
 
NPB400犠打と2000本安打の記録を保持するのは宮本が唯一の存在です。
 
また、その2000本安打も当時は社会人出身で達成したのは落合博満古田敦也の2人でしたが、3人目に名を連ねました。(後に福留孝介が日米通算2000本安打を達成)
 
野村監督の教え子は稲葉篤紀2000本安打を達成しています。長きにわたって安打を量産できたことは、ノムさんの教えと無関係ではないでしょう。
 
ちなみに歴代犠打3傑は
  1. 川相昌弘 533 1909試合 1199安打 ゴールデングラブ6回
  2. 平野謙  451 1683試合 1551安打 ゴールデングラブ9回
  3. 宮本慎也 408 2162試合 2133安打 ゴールデングラブ10回 
 
と球史に残るいぶし銀のトップ2と比べても残した数字の偉大さがわかります。(平野は試合数が現代に相当していたら2000本打ってそうですが)
 
本職のショートからにコンバートされたサードでも2009年から4年連続ゴールデングラブ賞を獲得しました。
 
ハッキリ言ってこのような選手は未来永劫現れないのではないでしょうか??
 
似たタイプの選手は今後も数多く出てくるでしょうが、20年近く1軍で活躍するのは無理でしょう。
 
菊池も今宮もあと10年ぐらい実力をキープしないといけませんからね。ゲームでは使いづらいですが、監督はよほど重宝したことでしょう。
 
さて、昨年まで監督を務め2015年にリーグ優勝を果たした真中満も全盛期のヤクルトで主力として活躍し、現役晩年は代打の切り札としてチームを支えました。
 
 真中は宮本コーチより1学年下にあたります。宮本コーチは社会人を経てからのプロ入りだったので、大卒の真中の方が先にヤクルト入りしました。
 
ノムさんも言っていますが宮本は自分と同じく処世術を持ち合わせていない「世渡りベタ」だそうで、監督になるのも年下の真中に先を越されてしまいました。

師弟 見どころ

ずいぶん前置きが長くなってしまいました。本書については8つのお題について、それぞれノムさんと宮本の考えが交互に続いていきます。なので対談本ではないです。
 
ノムさんパートについては
  • 川崎にシュート伝授
  • 小早川開幕戦で斉藤雅から三連発
  • 新庄にピッチャー
  • 松井を退けて伊藤智仁を1位指名
  • 外野手監督不適合論
などなどのお馴染みエピソード笑
 
なぜか何回読んでも面白いのは僕がよほどノムさんを愛しているのか、ノムさんの文才が凄いのでしょうか。120冊書いてもまだ書いてくれと言われるくらいだから。
 
宮本との共著なのでやっぱりヤクルトのお話しがやや多めと感じました。楽天監督時代にはほぼ触れていないのではないでしょうか。
 
そして、宮本パートはさすが愛弟子だけあっていい感じに面白エピソードが出てきます。

真中満について

2015年の日本シリーズについては「真っ向勝負、力勝負を挑んでいるように映った。(野村監督の教えである)弱者であることを武器にし損なった」と評しています。

確かに同年のヤクルトはあまりにも無策に敗れ去り、ソフトバンクの強さだけが際立ったシリーズでした。

近年の日本シリーズは2013年の巨人VS楽天を最後にまったく盛り上がりを欠く展開になっているのは、弱者たるセリーグの無策ぶりのような気がします。

バレンティンについて

「ピッチャーゴロを打ち、バッターボックスから一歩も走らずに帰ってきた選手を、初めて見た」

バレンティンの左翼の守備はほんとスゴいですよね(笑)あれは投手と険悪なムードにならないのでしょうか。

2018年、宮本コーチは彼の緩慢プレーを改めることができるのか。

谷繁元信について

「ときどき使うインコースのタイミングが絶妙」で、現役時代ほとんど打ったことがないと絶賛しています。

仁志敏久について

「走る前、えくぼができる」By古田
古田は仁志の盗塁を全部刺していたのでしょうか(笑)

山本昌について

「振りかぶったとき、口をキュっと結んでいたらストレートで、反対に緩んでいたら変化球」

山本昌との通算成績が気になるところです。

菊池・今宮について

「二人とも守備範囲が広く、肩も強いので、華やかに見えますが、そのぶん細部はまだ洗練されていません」

現役2トップの内野手と呼んでもいい彼らについて、10年後に答えは出ているでしょう。

とまぁノムさん譲りの批評が他にもあります。鋭い観察眼と「見えないモノを可視化する能力」は文筆家として優秀です。

今後、監督として成功することがあればきっと著書はたくさん売れると思います。目指せ120冊!!

総評

僕は宮本が選手時代から言っていたと思うのですが「野球を楽しいと思ったことはほとんどない」という言葉が非常に印象に残っています。

シーズンオフの間、「うるさ方」としての宮本コーチの姿がジャンジャン報道されていますが、嫌われても怒る。言うべきことは言うというのが本書を通じても伝わってきます。

この本は2016年初版なので、当時はまだコーチとしての打診もなかったわけですから、シーズン直前の今になって読んでみると「有言実行やなぁ」と頷く。

山田選手への言及は僅かでしたが、今シーズンのヤクルト浮上最大のカギは山田が復活するか否かというところでしょう。

本書を通じて語られる、野村、宮本イズムが果たして現代のヤクルトに受け入れられるのか注目です。山田がまた悪いようだとチームが空中分解ということが心配されます。

私見では監督ではなくヘッドに据えたのは禅譲路線で、チーム状況が厳しいということでとりあえず小川監督に矢面に立ってもらっているんではないでしょうか。

文中でも宮本は小川監督がスカウト時代に獲ってもらったと感謝の弁がありますので、2人の関係は良好なのでしょう。

そしてノムさんはほんんんっとに野球オタクなんですね。そんなノムさんが僕は大好きです。ストライクゾーンを9つに分ける野村スコープは特許取っておけばよかったのに。あれがないと今の野球ゲームは機能しないですよ笑

でも、ノムさん。心配です!!2017年にサッチーが急死してから、ドンドン元気が無くなってるじゃないですか!僕はもっともっとノムさんの本が読みたいです。

最後にノムさんから宮本へ贈る言葉で締めたいと思います。実現してノムさんを元気づけて!!

ただ、ひとつ、ささやかな夢があるとすれば、宮本と、稲葉が監督として、対戦するところを見てみたい。二人がどんな野球をするのか。

こんな弱気な言葉だけでは寂しいのでノムさんらしい名言をもひとつ

負けは、負けたと思った瞬間が負けであり、負けだと思わなければそれは勝利につながる

コピーライト by 氷河期男の咆哮