氷河期男の咆哮

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【書評】安楽死を遂げるまで この地獄を生きるのだ

生来、「陽」というよりは確実に「陰」側の人間なので、人の死について考えることがよくあります。30代で鬱を患ってからはなおさらです。

「死」というものにリアリティを感じたこと、そしてそれを乗り越えたことで、非常にそれを客観的に感じられるようになりました。

なんだかんだ言って人間はどうせ死ぬわけです。だから恐れたり、傾倒するんじゃなくて、冷静に捉えればとても興味深い題材なんですよね。

目次

安楽死を遂げるまで 

日本では未だに議論がまったく進む気配を見せませんが、世界ではスイスやオランダなど人為的な死が認められている国があります。尊厳死といったり安楽死といったり。

本書では色んな国の色んなケースが紹介されています。この本のいいところは専門家による分析ではなく、著者が安楽死に対して無知なところからスタートするところです。

学ぶ感じじゃなくて読者が感情移入しやすい。著者もジャーナリストとしてつとめて第三者的に振舞おうとするんですけど、ある種のカルチャーショックを受けながら取材を進めていくところなんてリアリティがあります。

今年、西部邁さんが自殺を遂げられ、協力者が自殺ほう助の罪で執行猶予つきの有罪になったのは記憶に新しいところですが、西部さんのようなケースなら安楽死が認められていたであろうと思われます。(ご本人が望まれるかどうかは別ですが)

今後、きっと日本では同様のケースがどんどん事件化していきますよね。老々介護の末の嘱託殺人がたまにニュースになりますが、何か劇的な事件が起きた時に法制化が検討されるんでしょう。

僕、個人としては死期が近づいたらみんなでパーティーして、その後「クッ」と酒を一杯あおって「そんじゃバイバイありがとう!」なんて死に方最高じゃないかと思います。

死んで残るのは、生きている人の心の中にだけです。それならできるだけ楽しい思い出で残りたいじゃないですか。

この地獄を生きるのだ うつ病生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。

現代社会の宿痾とも言うべき「ブラック企業での激務」「鬱病」「生活保護」などのエピソードがふんだんに盛り込まれています。

「漫画かよ」と言うぐらい悪辣な医療従事者や、クソみたいな役人が登場したり、波乱万丈な社会復帰までのストーリーは飽きることなく一気に読めてしまします。

シニカルかつ情緒ある文体が僕にはとても合いました。なんといっても、同じ病を患った同世代の方ということで、シンパシーを感じる部分も多かったです。

こともなげに振り返って書いておられますが、それはもう苦しかったことだろうと思います。終盤、社会復帰に向けて道が開けていくくだりなんかは感動的で、フィクションでは味わえないものです。

ずっとひたむきに努力されてきたことが日の目を見ることになって、やっぱり誰かがそういうの見てるんですね。

僕なんかは諦観して激流に身を投げて委ねているうちに、偶然の積み重ねで穏やかな水面に戻っていた感じで、雲泥の差です。

頑張ってこーと思わせてくれる本でした。

まとめ

死について深く考えて、今の生の輝きが尊くなるもんです。無意味に無駄に生きている今日も、実はすごく大事な一日だったり。

今日と同じ明日が来るとはかぎらない。この気持ちは大切にしときたいです。

 

 

 

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