氷河期男の咆哮

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職務経験5年の僕がお伝えする「放送作家」「構成作家」に関するあれこれ

 ダウンタウンの番組を担当する高須さんや、鈴木おさむさんを始め、近年「放送作家」という職業にスポットライトが当たることが少なくありません。古くは先日お亡くなりになった永六輔さんもそうですし、なにかとお騒がせな百田尚樹さんも元々放送作家です。

 そんな大御所の人々とは比べるべくもないですが、僕も以前関西で5年ほど放送作家としてTV局に出入りして働いていました。お笑い芸人のマンボウやしろさんの放送作家転身に絡んでヤフーニュースでこういう記事があったので需要有りなのかなと思い、今回はもっとスケールの小さなお話をしようかという次第です。

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  ちなみに僕がやっていたのは2005年~2010年あたりなので、現在とは少々事情が異なるかと思います。ですがいちいち「○○でした」とするのも読みづらいので、現在形で書かせてもらいます。そして僕は、まったく業界に順応できず逃げるように去っていった負け組の放送作家で、その負け犬の意見だということだけ予めご了承ください。

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そもそも放送作家とは

 上記したような有名人の露出や、知名度ある芸人さんが作家を務めたりしてることもあって、本来裏方である放送作家が世間の知るところとなりました。テレビもラジオもそうですが、放送は大別すると以下の3種類の役割分担で成り立っています。

  • 演者(タレント・アナウンサーなど)
  • 制作(プロデューサー・ディレクター・作家)
  • 技術者(カメラ・音響など)

 プロデューサーは言わば監督です。ディレクターは映像担当。作家は構成担当というふうに分業されていますが、実際はディレクターと作家の間にはっきりとした垣根はありません。ディレクターと作家のパワーバランスの違いによって仕事内容も大きく変わります。

 お互いに協力して構成を練っていくこともあれば、必要なことを調べるように命令するだけのディレクターもいます。その逆で作家の言うとおりに映像を作るディレクターもいます。では作家の業務内容を順に挙げていきましょう。

-番組会議でのネタ出し-

 「ガキの使い」の人気コーナー、七変化を観たことがあるでしょうか?あれは番組会議をしている設定のところに芸人が乱入する形ですが、実際、あんな感じでネタを持ち寄って、使えるか使えないかを検討します。今のどのチャンネルをつけても同じことをやっているテレビを観ていればわかるように、基本的にテレビは慢性的なネタ不足です。当然毎回面白いネタを提案できるはずもなく、ダメ出しを食らうというのが日常茶飯事。ここでめげずに目立つのが作家の腕の見せ所です。

-放送に関する交渉事-

 TVで放映するにはなんでも許可がいります。勝手に放送して後で訴えられたらエラいことになるからです。飲食店や会社、工場、神社にお寺に病院、商業施設など、あらゆるところでの撮影許可を得るのも仕事のひとつ。全国にあるような大きな会社の場合、広報を通して企画書を見てもらって、数日待って許可を頂いてという段取りを踏まえてやっと放送できます。逆に言えば許可が取れなければどんなに面白い企画であってもお蔵入りせざるを得ません。地味ながら重要な業務です。

 またギャラが発生するタレント以外の出演者への交渉も作家の仕事です。大学教授とか専門家がよくVTR出演していますが、ああいった方達へも事前に企画内容を説明した上で許可をもらいコメントしてもらいます。実はこの業務がトラブルを生むことが少なくありません。

 せっかくVTR出演の承諾を頂いて、コメントを撮りさせてもらっても、はっきり言って使用するのは1分程度です。1時間ぐらい懇切丁寧にお話ししてくれてもバッサリとカットです。そもそも番組の構成には設計図があるので、それにそぐわない箇所はカットされて、必要な部分だけを放送します。僕はこういう姿勢に大いに疑問を感じていました。

 ある事柄について非常に丁寧に説明して下さった専門家の方が、実際に放送を確認すると、意図を歪曲されて伝えれていていると烈火のごとく怒り抗議するというのはしょっちゅうでしたし、最悪「訴える」ということに発展します。設計図にはめるためのパズルの切れ端のように扱われれば腹が立つのは当然です。取材、放送意図をきっちり伝えずに交渉するのはトラブルの元にしかなりませんが、実際は上からの命令を断り切れず、止む無く…。というケースは今も後を絶たないと思われます。先日あったTBSの出演者を編集でニフラムしてしまった件も同種の事案でしょう。

 -リサーチ業務-

 これもまたパズルのピースをはめる作業なのですが、番組に必要なデータをかき集る仕事です。生放送なんかだととにかくスピードが要求されますので、朝からググるしかやることがなかったりもします。業界に入るまでは知りませんでしたが「リサーチャー」なる呼称があり、どうやら制作ヒエラルキーの最下層に属する、ただ調べるだけのクリエイティブ要素のかけらもないこの作業に従事する人の俗称のようです。「リサーチャーさん」と呼ばれると自分が道具のような気がして小物の僕はイラっとしていました。

-台本作成・ナレーション原稿作成-

 番組には進行台本があります。きっちりその通りにというわけではないですが、大まかに流れを書いたものです。これを仕上げるのは作家の仕事です。ちなみにすべて台本のセリフ通りという番組もあるかもしれませんが、僕は見たことがありません。台本だいたい進行テーブルと演者の役割分担みたいなザックリしたものです。ナレーションは言わばVTRの説明文。これはアドリブなく原稿通りに読まれるので、文章力や表現力が必要になる部類の仕事です。

 このように放送作家というとなんとなく聞こえはいいですが、仕事はかなり地味です。最初に上げたような方々はこんな業務をやるわけもなく、指示系統のもっと上にいるメジャーリガーですが、関西でいうところの作家は大抵こんなもんです。そこから這い上がって目をかけてもらって、ピラミッドの上部に行くのはほんの一握りの人だけで、僕と同じく泡のように消えていく人がほとんどです。

 この仕事をしている時、仕事を聞かれて「放送作家やってる」と答えると、なんだかよくわからないので「すごーい」なんていう反応をする人が多かったですが、ただの雑用だったのですごくもなんともなく恥ずかしい気分でした。嫌な面をいろいろと書いてしまいましたが、これは僕に実力も資質もなかったからです。夢や魅力のある部分もたくさんありますので、まず、この業界への入り方をお話しします。

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