【書評】子どもたちの階級闘争
296P
著者 ブレイディみかこ
読みやすさ ★★★★
著者のブレイディみかこさんは今もっともキテるノンフィクションライターです。(私調べ)。ブリグジット前から英国の下層社会のリアルを伝えている方で、本業は現地の保育士。
僕は彼女のファンなので著書を読み漁っているのですが、本書は「ベスト・オブ・ブレイディ」でした。彼女は英国下層社会の現実を伝える国内ナンバーワン作家です。やっぱり。
目次
子どもたちの階級闘争の舞台・ブライトン
本書は保育士の著者がイギリスのブライトンという都市で勤めているときの体験エッセイです。
ちなみに知ったかぶりしてもしょうがないので、僕はまったく知りませんが、ブライトンとはロンドンの南部の沿岸部に位置したする都市です。
Wikipediaによると、イギリス有数のリゾート地とあるのですが読んでいるとどうもイメージが違いますね。
著者が勤める保育園は南部の白人貧困層や移民が住んでいる地域で、読んでいるかぎりそりゃまぁ酷いです。
シングルマザー当たり前、親のシャブ中アル中、DVどんとこいで、園児たちの暴力も日常茶飯事っていう、子供が愛されまくっている昨今の我が国の状況と照らし合わすと嘘のような状況です。
それとも日本でもすでにそういうことが起こっていて、僕はそれに気づいていないただのレイシストなんでしょうか。
まぁ、とにかく本書で綴られているのはそういう壮絶な保育の現場です。
子どもたちの階級闘争の内容
本書で著者が述べている点は主に2つ。
ひとつはイギリスの下層社会の絶望的な状況を綴る闇の部分です。サッチャー政権以来、仕事と人間の尊厳を奪われた白人労働階級者、いわゆる「プワホワイト」の現状はとにかくツラい。ツラすぎて逆に笑えてくるぐらい酷い。
とにかくサッチャーは現在のイギリスの文脈を語るにおいて必ず登場しますね。悪の親分みたいな感じで。そういう意味では同じように新自由主義に大きく舵を切った小泉元首相も20年後にはクソミソに言われているかもしれません。
白人労働者については以前書いた「チャヴ」の記事と同様です。
ただし「CHAVS」はイギリス左派の代表格が書いた本ですが、ブレイディさんは保育士です。しかも日本人ということで、私たち日本人にはよりいっそう解りやすいリアルな底辺社会が描かれていて、「チャヴ」は本書の主役の一端でもあります。
緊縮財政で立ち行かなくなった貧困層や、その子供たちを支えてきた保育園までもが閉鎖せざるを得ないというのは、読めば読むほど気が重くなります。
が、その一方で、そんな状況においても彼らを支えようとするイギリス人の姿や、己にはなんの責任もないにも関わらず、最下層の人間にカテゴライズされ、日々を生きていく園児たちの姿は、本書の肝であり光です。
あまりにも壮絶な環境に置かれた彼らの生活は日本人の感覚では簡単に理解できません。僕も親のはしくれとして、我が子には少しでも良い環境をなんて思ってることが恥ずかしくなってしまします。
ちなみに将棋の藤井くんの活躍でフューチャーされた「モンテッソリー教育」は、Google、Amazon、Facebookの創始者やビルゲイツも受けていたことが有名で、最近は関連本が多数見られます。
エリート教育のツールと勘違いされているかもしれませんが、「モンテッソリー」さんがやっていたことは、貧困層の子供を引き上げるための教育です。早期教育を施すことによって、そこから抜け出す方法を得るための。
それがいつの間にか、富裕層の教育方法になってしまった現実はなんとも世知辛い話です。
総評
なにがいいって、ブレイディさんはとてつもなく知的で、なおかつウィットに富んでいるですね。そして優しい。
しんどいことを笑い飛ばしながら生きている人の姿に僕は最も惹かれるのです。これ読んでて20回ぐらいウルっとなりました。
この文学的な才能は小説書かせたら楽勝で賞取るんじゃないかと思います。
アメリカやイギリスの格差社会や貧困層の問題は、近年各所で取り上げられていますが、ジャーナリストや政治家の声ってなんか違うんですよね。
左も右もなく、ブレイディさんは「地べた」という言われ方をしますが、下から定点観測した下層社会を訴えているので非常にリアリティがあります。
白人が移民を嫌っているだけではなくて、移民も落ちぶれた白人を嫌悪していることなんて、あまり伝えられることはありません。
緊縮の名の下、弱者の尊厳が踏みにじられていることも。最も割を食うのは、自分では何も状況を変えることができな子供たちです。
そんな彼らに対する著者の慈しみ溢れるエピソードが多数収録されています。
最後は、著者が園児にかけた強くて優しい言葉でもって締めたいと思います。
泣くな。泣くんじゃなくて、もっと怒りなさい。
泣くのは諦めたということだから、わたしたちはいつも怒ってなきゃダメなんだ