氷河期男の咆哮

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EURO2016に見るサッカー日本代表のこれからの考察

 W杯王者ドイツをホスト国フランスが撃破し、決勝のカードが決まりました。フラスの相手は悲願のビッグタイトルを目指すクリロナのポルトガル。両者の過去における主要国際大会での成績はフランスの3勝でポルトガルは0勝。これにホームの力が加わることを考慮すると、フランスの優位が大勢の味方でしょうが、楽しみな一戦です。

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ファイナルの命運を握る2人 

 さてこの両チームの共通点はポルトガルは言わずと知れたC.ロナウド、そしてフランスは今大会、祖国の英雄プラティニ以来の大会6得点を挙げているグリーズマンという強力なストライカーがチームを引っ張っているということです。もちろん両チームは中盤以降にも世界的なプレイヤーが揃っているのですが、2人のアタッカーの出来如何が勝敗の行方を担っていると言えます。
 フランスVSドイツの準決勝はボールポゼッション、ドイツの65%で完全にドイツが押していましたが、決め手を欠き、マリオ.ゴメスの不在がモロに結果に響きました。スペイン最強時代が長く続き、日本が目指す方向はあのパスサッカーだという意見がよく聞かれましたが、やはり古今の例からもわかるように、国際大会で総合力の劣るチームが上位に残るためには傑出したストライカーの存在が不可欠です。スペインのようなゴールデンすぎる中盤を日本が敷ける可能性は未来永劫訪れるように思えません。日本代表では長年「中盤偏重」のメンバー構成が問題視されていますが、一向に生粋の点取り屋が出現する気配がありません。海を渡って結果を出した岡崎選手が近年唯一の光明ですが、いかんせん代表では輝かない。日本がNO.10の選手を重用するのはなぜなのでしょう?

大空翼の呪縛

 「キャプテン翼」。今の若い世代はさすがに内容は知らないでしょうが、名前ぐらいは耳にしたことがあるでしょう。1980年代、日本中のスポーツ少年を熱くさせ、現在も続くサッカー漫画界の「レジェンド」です。この作品が日本にサッカー文化を萌芽させたと言っても過言ではないでしょう。当時はサッカーなんてテレビでやってませんし、今では考えられませんがW杯はテレビ東京でヒッソリと放映されていました。

 主人公「大空翼」のポジションははゲームメイクも得点もできるNO.10、いわゆるトップ下です。中田英、本田、中村俊介、小笠原、遠藤、名だたる日本のトッププレーヤーが名を連ねるのもこのポジション。清武、宇佐美、香川選手もバリバリのトップと言うよりは1.5列目タイプですよね。大空翼は漫画だからいいのです。いつでも得点が取れますから。しかし現実はそうはいきません。どれだけ優秀なトップ下が揃っても、優秀なアタッカーがいなければ得点には至りません。
 実は大空翼も小学生まではFWのポジションでした。しかし中学に上がると、恩師ロベルトの言いつけに従い、トップ下にポジションを移します。ライバルの日向君が点取り屋なので、キャラに違いを持たす意図と、当時はなんでもできるディエゴ.マラドーナの全盛期。その影響もあったのではないかと推察されます。その後、サッカー少年はこぞって10番を目指したことはいうまでもありません。ロベルトが翼をコンバートした時、日本サッカー界の行く先は決まっていたのかもしれません。

浮沈のカギは編集

 点取り屋に対する軽視はどう解決すればよいのでしょうか。思えばJリーグ創世記にはカズ、ゴンという生粋の点取り屋が輝きを放っていました。ウラ取りはしていませんが、彼らはキャプテン翼世代ではありません。ゴールゲッターがいちばんイケてる時代に育ったのではないでしょうか。
 1.5列目から2列目に優秀な選手が育つ土壌はもうできました。であれば、次はNO.9が育つ畑を耕すところから始めるしかありません。ということは原点に戻ると、サッカー漫画家の育成から始めなければなりません。ということは将来のサッカー界を背負ってるのは少年誌の編集担当ということになります。
 キャプ翼以降、金字塔を打ち立てたのはシュートでしょうか。主人公はバリバリの点取り屋「トシ」。そして、久保君の名言「ボールを持ったら行ける とこまで行け!観客全てが自分を見てると思え!1歩でもゴールに近付けろ」。これも最高じゃないですか。なのにこの漫画から「ストライカーかっけー!」感が伝わらないのは、サブキャラが立ちすぎてるからです。主将の神谷、平松に健二、敵キャラにもガンガン主役を食っていきます。それゆえ名作と言えども、少年の10番偏重志向を覆すには至らなかったと推察されます。今人気を博してるのは「ジャイアントキリング」でしょうか。しかしこれはモーニングでの連載。おっさんの読む漫画です。どんな内容であったとして少年に影響を与えることはありません。困ったものです。

野球は格闘技だから成り立ちやすい
 サッカーはそもそも漫画にするのが難しいスポーツです。継続的に名作が生まれる野球との大きな違いは野球が「静」のスポーツであることに対して、サッカーは「動」であること。野球漫画の基本構図は投手対打者。これは格闘技漫画に通じるところで「個対個」すなわち2人の力比べが最大の見せ場です。サッカーはセットプレー以外、止まりません。また、実際にはセットプレーによる得点は多くを占めますが、漫画の見せ場がそれではまったく面白くありません。必然的にクライマックスは流れの中から生まれるゴールということになります。ゴールが終点ということは見せ場はそこへ至るまで。ということは重要な役割を果たすのは中盤です。トップのキャラを魅せるためのアクションはすんげーシュートを撃つドリブルで相手を抜きまくるしかありませんので、そう何度も使えません。それゆえ、ストライカーが漫画で存在感を示しすぎることは、作品そのものを下らなくするというジレンマを抱えてしまうのです。

 長々とこじつけによる考察をしてきましたが、結論としては天才の出現を待つしかないようです。それも漫画家。それもトップを主人公にして立たすことができる。キャプテン翼は名作ですが、キン肉マンと同じくあまりにも荒唐無稽なところがあって、今時の少年たちはそれでは喜ばないでしょう。いつか少年の心を震わす点取り屋の点取り屋による点取り屋のためのサッカー漫画をヒットさせる天才の出現を願っています。天才ストライカーが現れてこの考えを一蹴する方が早い気がしますが。

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