氷河期男の咆哮

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【書評】月明かりの男

  • 362P
  • 著者 ヘレンマクロイ
  • 読みやすさ ★★★★★

舞台はニューヨーク。大学の研究所で殺害された教授。銃身はあるのに、銃弾が見つからない。逃走する犯人を目撃した人間が3人いたが、証言がすべて食い違っている。その謎に挑むのは警察お抱えの精神科医ウイリング博士。

この設定だけでもミステリとしてかなりそそるんではないでしょうか。パパっと読める王道ミステリです。

目次

著者 ヘレン・マクロイ

本書を語る上で、まず著者のヘレン・マクロイのことを上辺だけでも理解しておいた方がいいでしょう。

ヘレン・マクロイはアメリカのニューヨーク出身の女性作家です。で、ここポイントなんですけど1904年生まれで90歳で既にお亡くなりになっています。

本書は2017年の新刊なんですが、原題「The man in the moon light」の初版はなんと1940年!第二次世界大戦中のことです。

初版から80年近くを経て邦訳が出たわけです。物語の謎解き役であるベイジル・ウイリングを主人公としたシリーズは13篇もあるのですが、本作は2作目に当たります。

こちらにかなり詳しくわかりやすく列挙してくれているサイトがありました。

susumutomaru1999.blog.jp

13作が激しく順不同で邦訳されているので、出版された順に読んでいくととてもおかしなことになりそうですが、本作が初めてだった僕の感想としてはスムーズに世界観に入り込めました。

僕も後で思ったのですが、これを知ると一作目から読みたくなるのが男の収集癖というものです。が、とりあえず、本作からスタートしても大丈夫。

あと、もうひとつこれを最初に説明しておいたのは戦時中の作品であるということを念頭におかなければ、世界観がなんだかおかしくなるからです。

アメリカ人と中国人とドイツ人が出てくるという、当時の国際情勢丸出しなので、それぐらいは踏まえて読み進めた方が「ん?」ってならないと思います。

月明かりの男はこんな話

ミステリのあらすじはあんまり言わない方がいいと思うので、本当に簡単になんとなくの概略を書いときます。

物語の構図的には「金田一君」的なノリをご想像頂けるとわかりやすいかと思います。第一の殺人発生。さらに被害者が出る。「犯人はこの中にいる!」的な感じで。

容疑者は絞られていくので犯人当ては難しいものではないと思いますが(ちなみに僕はサッパリ思い至らず)、核心となる証拠を読みながら見つける人はとんでもない頭脳の持ち主なんじゃないですかね。

相棒の右京さんや古畑任三郎が言うあれですよ。「あの時あなたが犯人とわかってましたよ」みたいなやつ。

僕はそれ読んでも理解するのに活字を舐めるように見ましたわ。この謎を初見で解けるような人はぜひとも今の職を投げうって、未解決事件を解決する業務に従事してほしいです。

国会で証人にイヤらしい質問をするとかもぜひお願いしたい。

話が飛びましたが、本作は時代の古さを多少しか感じさせず、ラストに近づいてもまだ真相に近づけない構成となっているので、あっという間に読めちゃうと思います。

総評

「理系探偵」というと現在ではありふれた設定ではあると思いますが、当時としてはかなり斬新だったのではないでしょうか。

物的証拠ではなくて心理的側面から真相に迫っていく手法ゆえに、スマホやネットがなくても古臭さを感じさせません。

ぜひともシリーズを通読してみたと思わせてくれるきっかけになる一冊でした。

では精神科医らしいウイリング博士のセリフで締めたいと思います。

独創的な嘘は嘘つきにとって危険なのです

本人が抑えることのできない無意識の操作がふくまれていますので

 

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