氷河期男の咆哮

ロストジェネレーションサラリーマンがお送りする育児、書評、時事情報です。

【書評】潔白

  • 262P
  • 著者 青木俊
  • 読みやすさ ★★★★★

もし刑を執行してしまった死刑囚が冤罪だったら?そんなif物語を死刑囚の娘と検事、2人の視点から描いています。ミスを隠蔽し問題の発覚を阻止しようとする国家を正義の弁護士と共に打ち破ろうという物語は珍しくはありません。

本書に関していえば魅力は「いかにも体制側がやりそうなことあるある」をリアルに書いているところです。

正義よりも国民よりも組織を守ることを最優先する人間が実際にいるということは、ちょうど2018年3月現在、世間を賑わしている財務省森友学園に関する文書改ざん問題を見ればわかる通りです。

もし、実際に無罪の人間を死刑にしてしまったら。隠蔽しない方が不思議なような気がします。

目次

青木俊 プロフィール

では著者の青木さんのプロフィールをサラッと。

ということで、テレビ東京では報道畑にいたそうです。いろいろ言いたいことがあったんでしょうね、きっと。

テレビ局にいると報道といっても政治やスポンサーの前では無力に等しいですからね。それはわが道を行くテレビ東京であっても少なからずあるんではないでしょうか。

ジャーナリストの清水潔さんに大きな影響を受けたとういことで、kindleで対談本を出しています。

清水潔さんと言えば昨年話題になった謎の本「文庫X」の著者。マムシのような清水氏の取材ぶりが見所の良作です。

リアリティの追及は清水さんと志に共にしてるといったところでしょう。言いにくいところをどこまで踏み込むか。

そういう意味では本書は宣伝的にはあまり歓迎されない本なのかもしれません。

余談ですが昨年売れた「トヨトミの野望」はメディア的には絶対扱えないやつで面白いですよね。

そういうところがあるのがメディアというやつなので、著者は文筆家へ転身したのでしょう。

ストーリー

ストーリーは冒頭に述べたように複雑なものではありません。真実を追求する死刑囚の娘ひかりと過去に傷を持つ男、高瀬検事という立場を逆にする2人の視点から冤罪事件が綴られています。

真実と正義を求めるひかりに対して、それを捻じ曲げることに苦悩する高瀬検事の精神的苦悩のコントラストが本書の中核を織りなす要素です。

絶対的に正しいひかりを、本来国民のためにあるべき国家の組織が蹂躙していく。この構図は何も冤罪の父を持ったひかりだけでではなく、現実世界の我々国民にも当てはまることです。

そのように感情移入させるために実在の事件を取り入れているのが本書の特徴です。本当にあったことを織り交ぜることで、読者は本当にありそうなこの冤罪事件にリアリティを感じることができるわけです。

実在する冤罪事件

では本書に登場する現実の世界で起きた冤罪事件を列挙しておきます。いずれも目を疑うような組織側の悪行が際立つものです。

足利事件

本書で著者が最も糾弾しているであろう、遺伝子鑑定MCT118型によるDNA鑑定を根拠に逮捕された菅家利和さんが無期懲役の判決を受けた。2009年に行われたDNA鑑定の結果、冤罪であったことが判明した。

三井環事件

検察の裏金問題を内部告発しようとしていた大阪高等検察庁公安部長の三井環が逮捕された。その罪名は「電磁的公正証書原本不実記載」。過去一度も立件されたことがない罪だった。

免田事件

熊本県人吉市の祈祷師宅で4人が殺傷された事件で強盗殺人などの罪に問われた免田栄さんは1952年に死刑判決が確定した。後、度重なる再審請求で無罪。日本初の死刑確定者の再審無罪判決。自白の強要が問題視された。

大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件

厚生労働省事務次官に就任だった村木厚子さんが郵便不正事件で逮捕されたが、検察の証拠ねつ造が発覚し無罪。逆に検事が逮捕され検察庁トップの辞任に発展した。

松橋事件

1985年、熊本県の男性刺殺された「松橋事件」で宮田浩喜は殺人罪などに問われ、懲役13年が確定し服役した。2016年、自白の信用性が疑われ熊本地裁が再審開始を決定するも熊本地検は即時抗告。2017年、福岡高裁が検察の即時抗告を棄却。

検察の自白の強要や証拠隠しが疑われている。

さらに福岡高検福岡高裁の決定を不服として特別抗告。2018年3月現在、判断が最高裁に委ねられている。

袴田事件

1966年、静岡県で発生した強盗殺人放火事件で袴田巌元さんは死刑が確定。その後冤罪を訴え2014年、静岡地裁が再審開始を決定した。検察は即時抗告し、東京高裁による心理が続いている。2018年3月末までに再審の可否を判断する。

足利事件と同じくDNA鑑定の信ぴょう性が争点となっている。

総評

実際にあった冤罪事件のひとつ袴田事件は最も記憶に残るところではないでしょうか。僕は完全に表情が死んでしまっている袴田さんを見て衝撃を受けました。

本書は袴田さんのような冤罪被害者を生み出す国家組織に対する怒りを原動力にして書いた作品です。

冤罪の可能性があるとわかっていても決して認めず、優先されるのは人権よりも組織の体面であるということ。それは物語ではなく現実の出来事であるということを明示しています。

正直いうと終盤、真犯人を明らかにするくだりの完成度はとてつもなく低いと僕は思うのですが、限りなくノンフィクションに近いフィクションを書こうとしたらこうなってしまったのかなと推察します。

「もし死刑失効後に冤罪が判明したら」。この部分に対して読者にリアルな想像させることが著者の最大の目的であり、関心どころだと思うのでラストはあんまり気にしなくてもいいのかなぁとは思います。

このへんは読者の判断の別れるところでしょう。

それでは、ひかりの絶望と怨嗟に満ちた作中のセリフでもって締めたいと思います。

「裁判官って神?」

【書評】子どもの脳を傷つける親たち

  • 224P
  • 著者 友田明美
  • 読みやすさ ★★★★

虐待のニュースを聞くと本当にイヤな気持ちになります。子どもの数は減っているというのに、その種の事件はしょっちゅうどこかで起こっています。表出するものだけでもそうなので、目に見えない虐待はもっとあるということです。そして親が自覚していない虐待も。

子どもの「心が傷つく」ことは簡単に想像できると思います。本書で述べられていることは子どもの脳が実際に損傷を受けるとういことです。

目次

マルトリートメントとは

マルトリートメントとは日本語に直訳すると「不適切な養育」で、虐待とほぼ同義です。子どもの心と身体の健全な成長・発達を阻む養育をすべて含んだ呼称ということで、より広義な概念としています。

「虐待」というと自分には全く関係ないように思えますが「不適切な養育」というと、親なら誰しも経験があるのではないでしょうか?イライラをぶつけたり、体罰を与えたり。

著者もわが子にうんざりして「睡眠薬を飲まして寝かせてしまえたら、どんなに楽だろう?」と思ったことがあると正直におっしゃっています。

マルトリートメントはどの家庭でも起こり得ることなのです。

実際に変形してしまう脳

では著者の研究に基いた脳が変形するという実例を。

子ども時代にDVを目撃して育った人は脳の「舌状回」という部分の容積が、正常な脳より平均6%小さくなっていたということです。舌状回は視覚野の一部です。

ざっくり言いますと、視覚的なメモリ容量を減少させることで苦痛を伴う記憶を脳に留め置かないようにしているのではと推察しています。

注目すべき点は、暴力によるDVを目撃した場合より、言葉によるDVを目撃した方が脳の萎縮率に6~7倍大きく影響を与えるということです。

目の前で殴り合いしてるよりも、言葉の暴力の方がヤバいってことですよ。ということは、めちゃめちゃ父親を罵る母親を目撃した子どもは、ボコボコに母親を殴っているオヤジを目撃するよりもショックを受けるってことですかね?(もちろん口ゲンカするより殴り合いをした方がよいということではない)

また、親から深刻な暴言を受けて育った子は聴覚野の容積が増えるそうです。これもザックリ言いますと、親の暴言によってシナプスの伸び方がめちゃくちゃになります。(正常な脳の場合適切な剪定のようなことが行われる)

シナプスが伸び放題になると、人の話を聞いたり会話する時に、通常より余計な負荷が脳にかかってしまいます。結果、心因性難聴で情緒不安定を引き起こしたり、人との関わりを恐れるようになってしまうのです。

子どもは親しか頼る人がいません。どんな辛い状況でも耐えれられるように脳の変形によって適応してしまうとは何と悲しいことか。

言うまでもなく、その変形した脳は成長した後になって社会に順応するには適していません。そして虐待がその子にまで及んでしまうケースは最悪の負の連鎖です。

本書にはマルトリートメントを受けた子が成長して親になった時、自分の子に対してもマルトリートメントを行う確率は1/3という数字は被害者が加害者になってしまうという現実を示しています。

どうやって子どもと接するべきか

著者が子育てに不安を抱えている家族や、不登校の子どもに対して実践していることの一部が紹介されています。これは通常の子育てにおいてもとてつもなく大切なことだと思います。

積極的に使いたい3つのコミュニケーション

  1. 繰り返す
  2. 行動を言葉にする
  3. 具体的に褒める

1はどういうことかというと、子どもの話したことを繰り返すということです

例)子「ねぇねぇお日さまが出てるよー」

  親「そうだね。お日さまが空に出てるね」

こうすることで子どもには自分の話を聞いて、親が理解しているということが伝わります。それによって会話が上達し頻度が増すということです。

2は子どもがやってることを「あ、ちゃんとお片付けしてるんだね!」みたいな感じで声をかけ、興味関心が子どもに向いていることを伝えます。

子どもが今やっていることが良い行動だと学習もできます。子どもはやっていること大して注意を保つことができるので、行動についての考えがまとめられるようになるということです。

3は「お友達と順番交代できたんだねー凄いね!」みたいに、具体的に褒めることです。褒めることはよい行動を増やす効果があるそうです。

実際に褒められると報酬系の脳が反応します。お金をもらった時とかと同じ反応ですね。大人でも褒めらると嬉しいですからね。

避けたい3つのコミュニケーション

  1. 命令や指示
  2. 不必要な質問
  3. 禁止や否定的な表現

逆にやらない方がいいことですが1は解りやすいですね。大人も人から言われると興味がそがれやる気がなくなる人は多いでしょう。

「こんなふうにやったら?」みたいな言い方も子供の主導権を奪うことになってしまいます。これはすなわち親の欲求。子どもが従わない場合お互いににイヤな気分になるので好ましくないそうです。

2はやってしまいがちですね。考え事をしている子どもに「何してるの?」と聞くと集中力が切れてしまうので止めた方がいいみたいです。

公園で遊んでる時なんかに「もうに家帰るの?」みたいな詰問調の質問は、子どもに否定的なニュアンスを与えるので、これも良くないそうです。んーなかな難しい。

3はやっていない親いないでしょう笑「ダメ!」「やめて!」「しないで!」と、否定的な言葉で迫っても問題が改善することはまずない上に、子どもの否定的な行動を増やしてしまうとあります。

どうでしょう?使いたいコミュニケーションの方は努力次第ですぐにできそうですが、避けたい方は相当努力がいるような気がします。

だけど、子どもの健全な成長のためと思って心にしっかり留めておきたい3か条ですね。

総評

この他にも、本書には様々な興味深いデータや、子育てに関して含蓄に富んだ話がたくさんあります。

「虐待する親なんて最低だわ」「何であんな人がいるのかしら?」なんて思っている人ほど、本書を読んでみると目からウロコとなることでしょう。

昭和生まれの僕からすれば子育ての概念は本当に変わりました。先日、同じ少年野球チームにいた友人たちと当時のことを話していたのですが、コーチが竹刀持って立ってるわ、殴る蹴るに水は飲めないわで「今なら確実に逮捕やなー」と盛り上がりました。

今となっては笑い話ですが、10歳やそこらの小学生に対していい大人がよーそんなことできたもんやなと思います。めっちゃ行くのイヤでしたからね。

この本を読んだら「俺も脳傷ついたんちゃうんか!?」とビビりました。本当子どもは大事にしましょう。国の宝なのだから。

それでは金言と共に締めくくりたいと思います。

家族や仕事、メールの返信は明日でもできるでしょう。

しかし、一日一日変化をしている子供の成長の瞬間は二度と訪れないのです。

 

【書評】明治維新という過ち-日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト

  • 416P
  • 著者 原田伊織
  • 読みやすさ ★★★★

司馬史観ということばがあるように、幕末の動乱から明治維新にかけての日本人の認識は著しく司馬遼太郎の影響を受けています。僕も初めて通読した小説が「龍馬がゆく」というわかりやすい司馬ファンです。

大河ドラマスペシャルドラマとして氏の小説は何度も原作として使われているので、あたかも司馬氏の物語が真実であるかのようにまかり通ってしまっている。そして、歴史の授業で習うような事柄でさえも薩長が書いた、すなわち「勝者が作った歴史」だというのが本書です。

「なるほど」と思うように書いてあるのはそういう本なので当たり前なわけですが、客観的にみても頷ける点は多々あります。

目次

 龍馬という虚像

犬猿の仲であった薩長同盟を一人で取り付け、大政奉還へと導いた偉人「坂本龍馬」。これが僕も習った歴史ですが、2017年末に「坂本龍馬吉田松陰が教科書から消える」というニュースがありました。

こんな大事を成した人間が歴史を学ぶ上で不要ということはありえないですよね。確かに。本書では龍馬は単なるグラバー商会の代理人だったとあります。

グラバー商会はアヘン戦争による中国侵略の中心勢力であった「ジャーディンマセソン商会」の日本代理店です。武器や兵糧が欲しい薩長とグラバー商会との仲介に龍馬の「亀山社中」を使ったということです。

薩長同盟という軍事同盟がそもそも存在しないともあります。薩長同盟の根拠とされる6か条の内容が、討幕を目的とした運命共同体になるという内容ではまったくないのです。まぁ確かになんでもたった一人で成し遂げたスーパーマンよりも、外国の出先機関の手先だったという方が、現実味はありますよね。 

吉田松陰の物ではなかった松下村塾

 松下村塾といえば幕末の志士たちを幾多輩出した吉田松陰の私塾。このイメージが強いのではないのでしょうか。ですがこれは誤りです。松下村塾は開いたのは松陰の叔父にあたる玉木文之進が主催していた私塾で松陰は門弟です。

ですので、松下村塾の名は「松陰」に由来するものではありません。場所が松本村だったのでその「松」です。

表題でも名指ししているだけあって著者は松陰を「稚拙な外交思想」「長州藩の厄介者だった」とクソミソ。

ちなみに「稚拙な外交姿勢」というのは、

・北海道の開拓及び、カムチャッカからオホーツク一帯の占拠

・朝鮮を属国とする

満州・台湾・フィリピンを領有する

というもので、後の世に日本軍はそれを実行していたりします。

目的達成のためには暗殺も辞さずという姿勢や不満分子を糾合したカリスマという点では、今でいうところのISのような扱いですかね。本書の文脈的には。

幕府の役人=無能は誤解

列強に日本を食い散らかされた無能な幕府役人とそれをすんでの所で救い明治維新を成し遂げ日本の独立を守った薩長というのがまた、教科書通りの教えです。

もちろんこれにも異議を唱えています。幕末には優秀な外交官僚がいて、彼らは実際に大政奉還の後も外交交渉を担当していました。この点については明治を創った幕府の天才たち 蕃書調所の研究という本に詳細があります。

政権奪取に成功した中心人物は皆20代、当時の背景に照らし合わせても若輩者といって差し支えないでしょう。彼らだけで政権運営を担当するというのは土台無理な話です。

幕臣たちがみんなポンコツだった方が、勝者である薩長には都合がいいですからね。

 総評

 ということで、本書のテンションに沿ってきましたが、龍馬や松陰が果たした役割は推測することしかできません。「暗躍」したのか「縁の下の力持ち」だったのか。

ただ、僕自身は司馬さんの小説によって司馬バイアスがかかっていたことは間違いありません。だって面白いんだもの。

2017年は維新150年にあたり、本書の他にも明治維新を再考する本が数多く出版されました。今まで光が当たることのなかった敗者である幕府を容易に知ることができるようになりました。

新しい観点を持って読む幕末本は読書により深みを与えてくれると思います。

【書評】女系図でみる驚きの日本史

女系図といわれてピンとくるのは僕が競馬ファンだから。「牝系」という概念は競馬界では常識ですが、人間社会は男系を重んじる社会です。

「お家断絶」ということばがありますが、これは直系の男子がいなくなった時のことを指します。娘から派生した系図を「お家」と認めないということですね。

競馬の牝系に詳しい人間は数あれど、日本の歴史の女系に精通しているのはこの著者しかいないのではないでしょうか。女系図を元に日本史に光を当てると違った一面が見えてくるというのが本書の試みです。

目次

平家滅亡は間違い 現代にも残る平氏の血筋

平家は壇ノ浦の戦いで滅亡したという印象の強い平家ですが、それは誤りです。壇ノ浦の戦いをもって平家一門が政治勢力から駆逐されましたが、一族全滅したわけであはりません

さらにいうと平清盛の直系男子が途絶えたのも戦から14年経った後でした。 そして清盛が正妻時子との間にもうけた娘から連ならる血筋はなんと、現代の今上天皇にまで繋がっているのです。

その一方で、戦の勝者である源氏の棟梁、源頼朝の直系子孫は幕府の終わりを待たずして途絶えてしまいました。そしてもうひとついうと頼朝の妻、鬼の北条政子平氏の血筋であったりします。女系図から見ればむしろ勝者は平氏になってしまうというわけです。

平安文学は近親だらけ者

紫式部源氏物語」、清少納言枕草子」、菅原孝標女更級日記」、藤原道綱母蜻蛉日記」、赤染衛門栄花物語」。

誰もがいちどは必死こいて覚えたのではないでしょうか。平安の女流文学者たち。女系図で表すと彼女たちもあちこちで接点があることが見えてきます。

ものすごく狭いコミュニティに日本史に燦然と名を遺す女性たちがいたわけですが、これを著者は「文化資本」ということばでもって説明しています。

要するにハイスペック家庭の連鎖のことです。現代でも教育機会の不均衡は問題になっていますが、情報を得るツールが何もないこの時代、金持ちで教養がある親の元に生まれた子とそうでない子が手にするスペックの差は今の比ではありません。

今でいうところの「ネオヒルズ族」同士で懇ろに文学を嗜んでいたというところでしょう。

女系をロボット化した徳川

最後に面白いところで、江戸時代の将軍家について。徳川15代将軍のうち正妻の子はたった3人しかいませんでした。将軍の正妻が将軍を産んだ例はたった一例。家光の正妻お江のみです。

他の時代と比べて、為政者の母の身分が異様に低いのには理由があります。強い「外戚」を作らないためです。

古今東西今昔、外戚はいくども獅子身中の虫となってきました。平安時代藤原氏鎌倉時代の北条氏、室町時代の日野氏もしかりです。

徳川家は歴史に学び、世継ぎの母を身分の低い者にすることで外戚を作りませんでした。いわば母をロボット化したのです。

偉いのは正妻。でも正妻の子は将軍じゃないので、正妻の父も偉そうにできません。徳川家のシステム作りにはほんと頭が下がります。

総評

他にも「聖徳太子天皇説」や「義経が殺された理由」「茶々と家康の因縁」などなど、女系図から読み解く面白い話が盛りだくさん。マニアックが過ぎるので少々置き去りにされたりしながらも、トピックの魅力でなんとか戻ってくる感じです。中高生の頃から女系図作りに勤しんでいたという著者には脱帽するばかり。

【書評】暴かれた伊達政宗「幕府転覆計画」-ヴァティカン機密文書館資料による結論-

  • 176P
  • 著者 大泉光一 
  • 読みやすさ ★★★

伊達政宗といえば戦国武将の中でも5指に入るであろう人気武将。ゲームでも率先して使用されるキャラではないでしょうか。

「あと10年生まれるのが早ければ天下を望めた。」そう言われる正宗が実は江戸の始まりに虎視眈々と天下を狙い、徳川政権の転覆を企んでいた。というのが本書です。しかもローマ教皇をも巻き込み、キリスト教徒を利用してという壮大な計画。実に興味深いではありませんか。歴史愛好家としては捨て置けない本です。

目次

伊達正宗の実体は

では簡単に伊達政宗をおさらいしておきましょう。政宗といえば独眼竜。独眼竜といえば政宗。とはいえ、お馴染みの黒い眼帯は後世の作り話による影響です。片目であったのは事実のようですが、天然痘が原因ではないかと言われています。

ちなみに伊達男の「伊達」も政宗の派手な出で立ちを語源としています(諸説あり)。伊達男といえば「欧州の伊達男」懐かしのK1ファイターステファン・レコですね!誰か知ってますか?(笑)今更気づきましたが、あの「欧州」は「奥州」とかけてたんだな。

話が脱線しました。彼が「あと10年生まれるのが早ければ」と言われる所以は、23歳にして奥州の統一を果たしたからでしょう。

これについては実際に現在の青森や秋田までを領土にしたわけではなく、奥州の大部分を勢力下に置いたというのが事実です。また、23歳の若さでの偉業は裏を返せば先人の積み重ねが発露に至ったと考えるのが妥当でしょう。

しかし後顧の憂いの少ない利点は「信長の野望」における伊達家と島津家を使ってしまいがちなことでも有名。

実際の国力をゲームのように単純比較することはできないでしょうが、野心家の政宗1570年あたりに南下政策を取ることができる状態であったなら、上杉、武田、北条とバチバチ睨み合って戦国面白くなってたんじゃね?というロマンを込め「遅れてきた男」として惜しまれるのでしょう。

でも、実際にはもう天下はほぼ秀吉の手中にあり、政宗は戦国のプレーヤーとしては無理ゲーだったわけです。

秀吉政権下では小田原攻めの遅産で首が飛びそうになったり、一揆の首謀者と疑われたり、朝鮮出兵にもしっかり参加して、なのに謀反を企てていると難癖をつけられたりしながらも、本領安堵で豊臣の時代を切り抜けます。

関が原には参陣していないものの東軍の一員として貢献。大坂の陣にも参加しています。ここで真田幸村の娘を預かり、彼女が仙台真田の祖となったのは有名な話です。

かくして戦乱の時代も終わり、平和な江戸時代を迎えるわけですが、ここにきてまだ政宗が幕府の転覆を画策していたとうのが著者の主張です。

なぜ今になって言い出すのか?

なぜ発見がこのタイミングになったか。

まず、著者大泉光一氏がどんな人物かを説明する必要があります。1943年生まれですので70歳はゆうに越えておられます。青森中央学院大学の教授で国際経営や危機管理を専門としている一方、本書あとがきにあるように「支倉六右衛門常長・慶長遣欧使節」の研究に半世紀を費やしているというマニアックなお方です。

発見が今に至ったのは、この研究に必要な古典ロマンス語をマスターするのに30年以上の月日を要したことがまずひとつ、そしてヴァティカン機密文書館にアクセスできる人間が厳格に制限されていることがもうひとつの理由です。

ヴァティカン機密文書館で何を発見したのか

 ヴァティカン機密文書館で見つけたモノは何か?

それは伊達政宗ローマ教皇に対して、カトリック王に叙任することを請願していたという証拠です。カトリック騎士団の創設を認められたら全国30万人のキリシタンを糾合して徳川幕府を倒し、カトリック王国を作るという申し出をしていたというのです。

政宗はいわゆる「キリシタン大名」ではありませんが、米沢藩キリスト教の布教を許していました。そのきっかけとなったのが、この壮大な計画の絵を描いたもう一人の人物ルイス・ソテロとの出会いです。

ソテロはフランシスコ会の宣教師です。江戸幕府の禁教令によって、火あぶりの刑にされるところでしたが、政宗の助命嘆願によって難を逃れました。(後年、結局火刑によって殉教)

それほど政宗ツーカーの仲だったわけですが、著者はこの恐怖がきっかけで徳川政権下でのキリスト教布教活動に絶望し、政宗を使って転覆を企んだとしています。よって転覆計画のアイデアのほとんどははソテロによるものだといっています。 

支倉常長と慶長遣欧使節団の密命

 支倉常長と慶長遣欧使節団は中学校の日本史の教科書にも出てくるほど有名ですが、その目的は一般的には「メキシコとの通商」「カトリックの宣教師派遣の要請」の2点とされています。

しかし著者は異議を唱えます。本当にそれだけだろうかと。この遣欧使節団は上記の計画を取り付けるという密命を帯びていたというのです。

まずこの使節団の総責任者ともいうべき支倉常長が怪しい。こんなに重要な役割を務める彼はまったくもって伊達家の重臣ではありません。

なぜか。その理由はブラフです。身分が高いといえない支倉氏であれば、もし計画が露見してしまった折、いかようにでも処せるという政宗の用心と配慮ゆえに選出されたわけです。

なぜ失敗したか

 さて、この使節団は結果としてはメキシコへ行った後、スペイン国王とローマ法王に謁見しているのですが、政宗とソテロの画策は何ひとつとして成就しませんでした。

ものすごく単純にいうと「そもそもオメーの君主、キリシタンちゃうやん」と、まったく相手にされなかったのです。

「訳あってまだ洗礼は受けてないんだよねー。でも家臣と領民はみんな洗礼させるよ」みたいな書状があって著書はここ政宗の目論見の甘さとズルさとめっちゃ厳しく責めています。

政宗がもし洗礼を受けていたなら、カトリック王として確実に認められ、日本国内のプロテスタントカトリックの大戦争もあり得たのではないかとも。

そもそも政宗は少年へのラブレターの存在も知られるように男色ですよね。カトリックは同性愛ご法度ですから、政宗の信仰心はあくまでも政治利用するためのものという感じだったんでしょうね。

それぞれの末路

 かくして計画が頓挫してしまい、幕府の禁教令に従って政宗も藩内のキリシタンを弾圧することとなります。それは洗礼まで受けて頑張った支倉常長が帰国したわずか2日後のことでした。

常長はその2年後に没します。ルイス・ソテロは前述しましたが、長崎に密入国して再来日をしましたが捕縛され、火刑という憂き目に遭いました。

野望は霧散し、結局政宗は幕府に恭順することになりました。なんだかとても可哀想なのは支倉氏ですが、彼はメキシコでもスペインでも高い人物評価を得ていたという文献が残っています。

初めて欧州で外交交渉を行った日本人としても後世に名を遺したことは彼の苛烈な人生における救いといえるのではないでしょうか。というか、どう考えても期待以上の働きをしたんだと思います。

総評

というわけで、駆け足で紹介させて頂きました。著者大泉氏がこの研究にかける熱い思ひがヒシヒシと伝わってくるのですが、それだけに少々客観性を欠いてるようにも見えます。

僕は研究者ではないので否定する材料をまったく持っていませんが、反論する専門家が大量にいるであろうことは容易に想像できます。きちんとした検証を行ってくれる人がいれば嬉しい限りなのですが。

本書の説をまったく知らなかった僕はひじょうに楽しく読めました。黒田官兵衛が九州から天下統一を狙っていた的な野望論は、やっぱり胸が踊りますよね。 

【書評】富山市議はなぜ14人も辞めたのか~政務活動費の闇を追う~

 2016年、富山市議が14人も辞職したというニュースを覚えている人も多いんじゃないでしょうか。その件を発覚から顛末までまとめたものが本書。著者にあたる「チューリップテレビ」というのは富山市にあるTBS系列の放送局です。全国ニュースに乗る前に自力でスクープにしたのが彼らでした。

政務活動費の不正といえば2017年は神戸市のハシケンこと橋本健議員が今井絵理子議員とアレがアレで結局議員辞職して随分と話題になりましたね。

 号泣議員として世界的にもその名を轟かせた野々村竜太郎元西宮市議も同じズルです。14人が束になっても彼のインパクトの足元にも及びませんが、この人たちも捨てたもんじゃありません。

 目次

 いきなり給料を10万円アップする富山市議員

上記の辞職ドミノの発端となったのが2016年4月に議会のトップである市田議長が、市長に対して議員報酬増額の審議会が要請したことでした。

議員定数を42から40に減らすことが決まっていたので、その代わりに給料増やせと。民間企業では考え難いこの引き上げが、非公開の密室で行われた審議会によって電光石火で「引き上げは妥当」との結論が出ます。 

4月に出された案が6月にOK。行われた審議会は僅か2回、時間にして3時間だったといいます。そして6月中に条例案を提出し、報酬増額案を出した7割を占める自民党会派で可決するというスケジューリング。

 早ぇー!それでもお役所仕事かよ!と突っ込みどころ満載です。どこかの国のイッキョウ首相でもそんなに早くことを運べないでしょう。

 市議会の条例はそんなに簡単に改正できるものなんでしょうか。これにて議員報酬は月額60万円から70万円に。

 この金額は全国の中核都市で東大阪市金沢市と並んで最高額ということです。そういうわけで、チューリップテレビが異議を唱えるため、突っ込みに行くわけです。

 「市議会のドン」中川勇

ここで登場するのが、本書のリード役を務める「富山市議会のドン」こと中川勇議員。小池百合子、現東京都知事躍進の折、悪の親玉として一躍有名人になった内田茂を意識しているのかいないのか。

2016年当時、前述したように全議員の7割を占めていた自民党会派のボスです。このボスがいい味出してるんですよ。一連のストーリーの堂々たる主役です。もう受け応えから終了フラグ出すぎだし。

取材に来た新聞社のメモを奪い取るというボスとしてあるまじき軽率なことをしちゃったり、漫画の第一話に出てくる悪党役にピッタリなキャラです。

そんなボスにチューリップテレビの記者がアタックして、市民感情を逆なでするようないい感じのコメントを引き出し、ドミノ辞職劇場の幕が上がります。

  政務活動費チョロマカを突き止める

中川勇攻略の糸口は情報開示請求による政務活動費の調査でした。よく週刊誌が議員の呆れたムダ使いを載せてますね。マンガを買ったとか、マクドナルド食ったとか。

チューリップテレビはこの制度を利用して、元々噂のある中川議員の政務活動費不正利用の証拠をあげるべく大量の資料を精査しました。

その結果、開いていない集会に使用したコピー代の領収書を発見し、関係各所にウラ取りを行って不正の証拠を固めていきます。

ハリコミがあったりして、さながら刑事ドラマ。中川議員にも直接質問していますが、当然しらばくれます。コピーの領収書出した人物はもちろんグル。この後の展開を見ると正直、この時点で本人ドッキドキだったんでしょうねぇ。  

ソッコーで逃亡するボス

この件が放送されるやいなや、観念した中川議員は、謝罪や否定をする前に遺書的な書置きを残して失踪してしまいます。

 

その後、命に別状もなく発見されるのですが、なんちゅう無責任な男だよ。イキってた前半部分と対比すると、怒りを通り越して清々しくすらあり「コントかよ!」とひとりツッコミみを入れたくなります。 

中川議員は結局議員辞職に至りますが、この失脚劇が本書のクライマックスであり、それ以上のことは以後起こりません。

フィクションならこの後、大ボスが出てくるところですが現実は、カラ出張している議員やら、茶菓子代を水増しする議員やら、同様の不正をしていた議員がバッタバッタと辞職して、計14人が議員辞職して幕を閉じます。

金額には大小あって、たった数万ケチっただけで辞職に至った議員はきっと「ごくごく小さいことなんです!」と言いたいことでしょう。

ちなみに不正に関与していたのは自民党の議員だけではありません。市の職員が隠ぺい工作に加担していたことも発覚し、富山市政の腐敗は常態化していたようです。

彼ら全員に共通して言えるのは薄い薄い罪の意識。往生際の悪さがかっこ悪いったりゃありゃしません。

過去から当たり前のように不正が行われていたようで、バレた議員からすれば外れクジを掴まされたという感覚だったのでしょう。

本当に悪いヤツは議員辞職しない

さて、この14人についてはマスコミはもちろんのこと、ネット上でも血祭りにあげられていますので、これ以上深くここでは言及しません。

罪を憎んで人を憎まずと言いますので。そもそも、しょっちゅう槍玉にあげられているにも関わらず、一向に改善されることのない政務活動費の運用の仕方に問題があるのは明らかです。

彼らは後ろ盾の弱い地方議員だから報道でフルボッコにされたにすぎません。滑稽な弁明や嘘を重ね、余裕でバレる。そりゃテレビ的におもしろい。

中川ボスなんてカメラに向かって、ほんとかウソかわかりませんが「まあ、飲むのが好きなもんですから、誘われれば嫌とは言えない性分で。ほとんどが飲み代です」なんて言っちゃうんですから、可愛らしいもんですよ。本書でも述べられていますが、もっと質の悪い国会議員や閣僚はゴロゴロいますよね。

さて2017年4月に行われた富山市議選挙では辞職した議員では唯一、浦田邦昭氏が勇敢にも立候補しましたが58人中53位の得票数であえなく落選。(それでも1,413票を得ているのが不思議)

そして不正行為があったのに辞職しなかった自民党の議員も7人がシレっと立候補し、5人当選しています。ちなみに落選した2人のうちのひとり吉沢剛氏は得票数は最下位の170票!どんだけ人望ないんだよ。バクチの勝ち分を受け取ってもらえないカイジのようです。

では、ここではバッシングの嵐をうまく回避し、不正を行いながらも議員辞職に追い込まれることもなく、選挙も勝ち抜いた世渡り上手な5名を列挙しておきましょう。政治家は謝ったら終わりとも言いますのでね。僕はこの人たちの方が信用できませんわ。

  • 五本幸正 3,795票 不適切使用37万5千円
  • 柞山数男 3,674票 不適切使用41万2千円
  • 金厚有豊 3,018票 領収書偽造疑惑にシラを切り通す なんと金持ちそうな名前
  • 高田重信 2,940票 2年連続の不正 頭おかしい なぜ当選できた
  • 成田光雄 2,960票 不適切使用6万4千円 40代、年功序列で不正枠が決まるのか?

以上、5名は富山市民の厚い信任を受け見事当選を果たしました!彼らを含めた自民党議員は22議席獲得。不正発覚前が28議席なので、議席を減らしたとはいえ過半数は確保。地方の保守の強さったら泣けてくるね。

投票率47.83%なんでこれが民意というわけではないんでしょうが、でもねぇ。。。これじゃきっとなんも変わんないっすよぉぉ!冒頭にあった賃金UPは取り下げになったことが唯一の救いですが、今後がまた心配です。

最後に、チューリップテレビの記者が本書で挙げている古代ギリシアの格言で締めくくりたいと思います。

 

政治に関心のない国民は愚かな政治家に支配される

 

地方都市の地方局が示したジャーナリズ精神が、多くの人の心に届くことを願うばかりです。

自殺予定日/秋吉理香子

自殺予定日 267P

著者 秋吉理香子

読みやすさ ★★★★★ 

 

 秋吉理香子さん初読み。「自殺予定日」という暗黒感と翳のある表紙でチョイスしました。前情報なしで読みましたので、いわゆるイヤミスを想定していたのですが、この作品はまったくそっち系ではなく、むしろ気恥ずかしくなってしまうほど爽やかな、10代の読書感想文用によさそうな青春ミステリー。2時間集中すれば読破できるのではないでしょうか。

 秋吉さんについて、管理人は「暗黒女子」を書店でよく見かけたなぁという程度しか知識がなく、それも手に取ってはみたもののパスしたような記憶があります。

 少女時代からアメリカと日本を行き来し、早稲田の文学部卒。アメリカの大学も出て映画関連会社でお勤めされていたとのことで、才女感が出まくり。

 2008年のYahoo!JAPAN文学賞受賞を機にプロになり、本作は5作目にあたります。

 少女の遺書から始まる冒頭、いかにものワケアリ母が出てきて、この後、復讐劇が展開されていくのかなと勝手に想像してしまいました。が、少女が自殺を決行したところから話がなにやら軽いタッチに転調します。幽霊少年の登場です。

 以後は探偵モノ。なんとなく結末は予想できますが、管理人は叙述ミステリーを見破ったことが皆無などん臭い読者なので、ラストは見事に作者の思惑通りにやられました。短編に近い分量なので、複雑な人間関係もない中、二段階オチでスッキリとまとまっています。

 本書のキーワードはやっぱり「自殺」。読後、タイトルに思いをはせることになるでしょう。自殺に対する登場人物の言動は非常に的を射ていたもので、主人公瑠璃の言葉が美しい物語の閉じ方に導いてくれます。

もしも三人のうち誰かがこの先、とても辛い経験をして、もう死にたいなんて自棄になることがあったら。

そうしたら瑠璃は、絶対に頭ごなしに否定なんてしない。

軽蔑もしない。弱さを責めたりしない。

相手の気が済むまで、ただ黙って話を聞いてあげる。簡単に「やめろ」と言わない。口先だけで励ましたりもしない。その代わり、嵐の中を支えて歩く。絶対にその手を放さない。具体的な解決策を一緒に探して、必ず打開して見せる--

  思春期の少女故の葛藤を中心に描いたとてもよくできた作品でした。他の作品も一度読んでみようかと思います。ちなみにこれは余談ですが、作者の秋吉さんは「イヤミスの旗手」と期待されているようですが、ご本人にはその自覚がないばかりか、イヤミスという言葉さえ知らなかったらしいですよ笑。

 

「生きるって何?」凹みすぎた夜に読んで欲しい4冊

「もう疲れた」「なんのために生きているんだろう?」「人生って、人間てなんだ?」

現代社会で過ごしていれば少なくない人がこう感じる時があるのではないでしょうか?これは先進国特有の悩みです。本来人間は、生物は生きるために生きます。

明日の生活がどうなるかわからない、今食べるものがないことが日常の国に住んでいる人たちには生きる意味を考えている余裕すらありません。

社会不安や心の病は社会が成熟しているからこそ起きるのです。住む家があって、着る服があり、毎日3食しっかり食べていても、それでも私たちは贅沢と思うことはありません。

青い隣の芝生を見て嘆息し、自分を卑下し、生きているかどうかもわからない何十年も後のことを憂いて心を砕き、病み、最悪の場合は命を自ら断ち、また逆に自暴自棄になって他人の生命を奪うことすら、もはや特別なことと言えなくなってしまいました。

これは果たして正常な感覚なのでしょうか。食べることもできない外国と比べるなんてナンセンスだと思う方もいるでしょう。しかし目の前にある幸せを感じることができないことこそが最大の不幸です。

「下を見ればいくらでもいるよ。」そういうことが言いたいわけではありません。生きることはそれ自体が尊いことです。他者と比べることに意味はありません。

そんなことを気づかせてくれる4冊を紹介します。

目次

ポンコツズイ-都立駒込病院 血液内科病棟の4年間-/矢作理絵

著者はバリバリのアラサーキャリアウーマン。人並み以上の体力を駆使してアパレル業で活躍していた彼女が突然襲われたのは「再生不良性貧血」という病。

日本では100万人に6人という患者発生数で難病指定されています。血液性の疾患で出血が止まらない。感染症のリスクが高まるなどの症状ある疾患です。

2013年に満島ひかりさんがドラマ「Woman」その患者役を演じておられました。

この本のいいところは、生命の危機に瀕する大病でありながら著者、矢島さんの語り口はタイトルからもわかるように、自虐的に自分を笑い飛ばしているところです。

感動や共感を求めるようなところは微塵も感じさせません。その気丈さ、心の強さに胸を打たれるばかりです。

信頼していた人の裏切り、家族のドナー拒否、入院仲間の死などおよそ普通の生活を送っている人では味わうこともないような絶望を、最後は笑い飛ばしてしまう。

そんな彼女が骨髄移植の副作用から苦しみで死を選ぶことを望むくだりは筆舌に尽くし難いものがあります。

窮地を嘆いてしょげ返ることもなく、同情を求めず、このような清い生き方ができる人がいることに力をもらえます。

こんな夜更けにバナナかよ-筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち/渡辺一史

 同じく闘病記になりますが、本書は自立生活を営む筋ジス患者とそれを支えるボランティアたちを書いたノンフィクションです。

体を動かすことも自発呼吸も不能、そして家族もいない鹿野氏が、自宅でひとりで生活するというといったいどういうことか、圧倒的なリアリティで表現されています。障碍者=弱者という先入観を完全に塗りつぶしてしまう鹿野さんの力強さが読者を惹き付ける。

恋や性の問題、ボランティアとの軋轢、きれいごとだけでは済まないギスギスした人間模様はまるで映画の一幕を見ているかのようです。鹿野さんが時折見せる弱さに人間の本質を垣間見る。ドラマよりドラマティックな結末が用意されています。

けだもののように/比古地朔弥

こちらは漫画ですが、主人公は特殊な環境で生まれ育った、人並み外れた美しい容姿を持つ少女ヨリ子。かなり性的描写の多い作品ですが内容はそれのみに止まるものではありません。

およそ人の持つ倫理観も常識も持ち合わせない主人公は、異性と体を重ねることを一切厭わない。それが女として当然の行為のように。

そんな彼女に魅了された少年と初老の男性。彼らはヨリ子に「人間」の生活を送れるように奔走し、翻弄される。彼女と近づけば近づくほど浮かんでくる人としての自分との違いに葛藤し、ヨリ子もそれに苦しむ。

人とは何なのか、人として生きるという意味とは、そして奇妙な三角関係が行き着く結末は。繊細で耽美な描写で描かれた名作。

社会の中で居場所をつくる-自閉症の僕が生きていく風景/東田直樹・山登敬之

自閉症の作家として有名な東田さんと、精神科医の山登さんが互いに質問し合って答えるという往復書簡の形をとった一冊です。有名な方なので動画サイトなども多数アップされています。見てもらうとわかると思うのですが、著者は口頭でのコミュニケーションはかなり困難な状態です。

しかし本書に書かれている文章はただきちんと書かれているという、そんなレベルのものではなく完全に物書きのそれです。創作物ではなく、手紙の体裁にも関わらず言葉の隅々まで透明感があって、なんとも瑞々しい文章。

その清さゆえにことばのひとつひとつに真剣のような切れ味がある。ハンマーで頭をどつかれたかのような重みもある。

本書の中で山登先生は自閉症を「感情マイノリティ」と呼べばいいのではと提案されています。自閉症と単に言うと疾患という印象を持ってしまうからです。

コミュニケーションが困難なので気持ちを他人にわかってもらうことは容易ではありません。それゆえに誤解されてしまいますが、この本を読めば世界観が変わります。

感情表現の多数派は数が多いということであって、それが普通、自閉症は普通ではないということではありません。その理由は本書に紡がれた東出さんの思いや言葉を見ればわかります。

総評

以上、4作品はいわゆる「ハンデキャップがある」人達かもしれません。友人がいる喜びも、食べる幸せも、生きているという実感も湧かないことは普通でしょうか。ハンデキャップではないと言えるでしょうか。僕にはそう思えません。

 自分に持っていないものを持っている人を書いたこれらの作品を読んで、少なくとも僕は命や人間にに対する考え方が変わりました。このブログを読んだどなたかの何かの一助になってくれれば幸いです。

使える時間を倍にするために(速読×記憶術トレーニング)

速読はただ本を早く読むにあらず

 「速読」ができる人をテレビで見かけたことがある人は多いのではないでしょうか。

 驚異的な暗算能力を示すいわゆる「フラッシュ暗算」と同様、常人離れした能力に思えてしまいます。

 しかし、速読はただ単に文字を読むわけではありません。実際、私は速読のトレーニングを始めてから劇的に生き方が変わりました。速読は奇術ではない。誰にでもできる。

 速読というのは読書の際、脳の使い方を変えるということです。脳トレブームが一時期ありましたが、速読も要は右脳トレーニングそのもの。この本にはその基礎的部分がすべて書かれてあります。

 内容を守って少しずつでもトレーニングすれば確実に速読の一端を理解し、身に付けることができるはずです。本が好きな人は絶対に鍛錬したほうがいい。一般に「読書はけっこうするほうです」といえば、

 その冊数はどんなもんでしょう。過去の文化庁の調査では一カ月に一冊も本を読まない人が47.5%。一カ月に3冊以上読む人は17.9%とありますので、ひと月5冊も読めば「活字好き」という部類に入るでしょうか。

 活字本のもっともやっかいな点は漫画と違って時間がかかる点です。漫画は30冊ぐらい一気読みしても1日あれば十分ですが、小説は丸一にかかってやっと一冊ということもザラです。

一生で読める本は何冊?

 たくさん世みたい本があって悩んでいませんか?もし週に1冊読んだとしたら、一カ月では4冊。年間にして50冊ほどになるでしょう。20年続いたとしてもたったの1000冊です。

 僕は毎週10冊程度、新たに読みたい本が増えるので、最低でも一日一冊ペースで読まないととても追いつきません。それが速読さえ身に付ければ可能になります。読書は読書を呼び、もっと違う本を読みたくなります。そういうものです。

 本を読めば読むほど(ジャンルにはよるでしょうが)論理的思考能力が向上し、今まで見えなかったものが見えてきます。脳のデータベースを増やすことと、速読で右脳を鍛えるシナジー効果は計り知れないと実感しています。

 「小説もっと読みたいなー」と思っている人はぜひとも速読に一日でも早く取り組むことをおすすめします。

その自虐ぶりは神々しくさえもある(ポンコツズイ)他2冊

ポンコツズイ

 再生不良性貧血というドラマか小説の設定でしかお目にかからないようなそしてご本人自らもそう思っていた方の闘病記です。

 イメージできると思いますが、最悪死に至る病です。かんたんに言うと血液が固まらない病気で難病指定されています。

  働き盛りの30代女性に突然降りかかった悲劇ですが、著者は徹底して作中道化を演じている。それだけに辛いことがより辛く感じさせられます。

  兄弟にドナーを断られたり、元雇い主にクソミソに言われたり、患者仲間が亡くなってしまったり、出産を諦めざるをえなくなったり、世界中の不幸を掃除機で集めているかのようで読んでて辛い。

 せっかくドナーが見つかって骨髄移植したら心不全で死にかける。死ななくても死んだ方が楽なような症状に苦しむ。

先生、もう苦しいの無理。もう嫌だ。もうなんにもしなくていい。

ね、もうなんにもしないで。 

  この心強き方が言うこの弱音には落涙しかけた。闘病生活を支えてくれる著者の友人、タトゥー職人のエピソードは超ステキです。本当に生きておられてよかった。

  深刻極まりない状況を徹底してユーモラスに表現するスタイルは「こんな夜更けにバナナかよ」に通じるものがある。

 「生きること」それを第一義とした本を読むと、ある種のカタルシスを得るように思えます。名著。

怒れるおじいちゃん(日本病――長期衰退のダイナミクス)

 いやーめっちゃ怒ってますこの著者。「時代遅れの軍国主義」と安倍首相大っ嫌い。「アベノミクス」と呼ばれる実体のない無意味な政策を丁寧にひとつひとつ「これダメあれダメ全部ダメ」と全否定しています。

 目新しい提言とかがあるわけではないんですが、非常に丁寧に現政権のダメ出しをしてくれているので、とてもわかりやすいですよ。

わが子が理系の扉を開けるために(ちっちゃな化学)

 理系離れが叫ばれて久しい。「だるまちゃんしりーず」のかこさとしさんと生物学者、福岡伸一さんがこのような状況を危惧して、親たちへアドバイスしてくれています。

 理系と文系の垣根を早期の段階で分けることのナンセンスさや、理系軽視になってしまったことへの考察、また、タブレットなどの機器と子供たちはどうあるべきかという

お二人の考えなど。なかなか興味深い本です。

コピーライト by 氷河期男の咆哮